第九章 双月の舞踏会
第七話 スレイプニィルの舞踏会
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の子は……わたくしとは全く違う……わたくしと違って……自分を信じ、それに従う力と意思がある……もし、わたくしに彼女の十分の一でも勇気があれば―――」
「―――あの戦争は起きなかった、と」
アンリエッタの言葉を受け継ぐように、士郎が言葉を紡ぐ。アンリエッタは空に伸ばしていた手を握り締めると、それを胸元に引き寄せる。手のひらを広げ、そこに何もないのを確かめると、ゆっくりと士郎に顔を向けた。
その笑っているような、泣いているような顔を……。
「ねえ、シロウさん……復讐に目が眩み、戦争を起こし……わたくしは一体何人殺したのでしょうか……一体どれだけの涙を流させたのでしょうか……」
「…………」
「……いったい……どれだけのかなしみを……にくしみを……うんだのでしょうか……」
アンリエッタの瞳が潤み、星の輝きを反射させ、まるで星空がそこに生まれたかのようだ。だが生まれた星空は、頬を伝い、あご先で珠となり、どんどんと溢れ落ちていく。
流れる涙は止まることがなく、まるで無限に湧き出るかのようで……。
泣きながら笑うアンリエッタの士郎を見つめる瞳は、空に輝く満天の星空にも負けない輝きを放ちながらも、何処か空虚な闇をたたえている。
まるで、とめどなく流れる涙とともに、大切な何かを流しているかのようだった。
だから、士郎は―――
「……わたくしは……いったい……どうすれば―――」
―――ふわりと……抱きしめる。
「―――まったく」
鋼の如き強靭な両腕をもって、まるでガラス細工の芸術品を抱くように。
「お前は背負いすぎだ」
小さな華奢な身体を包み込むように、守るように胸に抱き寄せる。
「見えないふりも出来るだろうに……あれもこれもと……確かにそれは立派なことで、大切なことだ……だけどな、そればかりに気を取られすぎるな」
胸元に引き寄せた頭を優しく撫でながら、士郎は幼い子供に言い聞かせるように優しく語りかける。
「他にも……あるだろう。アンに出来ることが……アンにしか出来ないことが……」
自分の胸元でアンリエッタの涙を受け止めながら、士郎は夜空を見上げる。
視線の先、夜空に浮かぶ無数の星が光を放つ中、特に強い輝きを放つ二つの大きな月が世界を照らしていた。
「皆の前に立ち、道を示すことが……この世界の月のように……夜を、皆が歩む先を照らすことが、な」
胸元で、びくりとアンリエッタの身体が弾み。
「……むり……ですよ」
声が……溢れる。
「わたくし、なんかが―――」
弱々しい、今にも消え入りそうな声。
「なんか、何て言うな」
ギュッと、抱きしめる。
続く言葉を言わせないよう
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