アインクラッド 後編
極夜の入り口
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れてるだろ」
「ッ……!」
マサキが雪上に横たわるキリトに視線を投げると、クラインは血相を変えて飛んで行った。
「何で……? 二人は一緒に戦ってたんでしょ? なのに、何で……」
「――黙れよ。……お前には、関係ない」
困惑で微妙に上ずったエミの声を、掠れたマサキの声が上書きした。向けられたマサキの視線を受け止めかねるように、エミはびくりと反応すると、気圧されて黙り込む。
マサキは視線を結晶に戻すと、手の中のそれをタップ。
そして。
「ハハッ……ハハハ……」
乾ききった笑い声が、銀白の雪原を空しく駆けた。虚ろな目の焦点には、《還魂の聖晶石》の解説ウインドウ。
――もう、二度と彼がこの世界に舞い戻ることはないという、何よりの証明。
「……俺には意味がなかった。君が持っていた方がいい」
マサキはひとしきり嗤うと、虹色の結晶をエミへと差し出した。彼女が戸惑いながら受け取るのを確認すると、マサキはもう一度ふっと噴出すように笑ってワープポイントへ歩き出す。
「――あの!」
「…………?」
不意に背後からかけられたソプラノにマサキが振り向くと、エミが全身を強張らせながら両手の中の小瓶を差し出していた。
「これ、ポーション……よければ、使って……?」
マサキは短く迷った後に「どうも」と一言告げながら小瓶を受け取り、そのままぐいと呷った。上等とはお世辞にも言えない味だが、何故かこのときだけは悪く感じなかった。……尤もそれは、味覚すらどうでもよくなっただけに過ぎないのだが。
マサキは空になった瓶を雪の上に投げ捨てると、ふらふらと歩き出した。ワープポイントをくぐる直前、野太い叫び声が聞こえた気がした。
気付くと、マサキは家のドアノブに手をかけていた。どのような道順を辿ったのかすら記憶にないが、マサキは気にする風もなくドアを開けた。ウィダーヘーレンが圏内村だったならば、オレンジのマサキは既にガーディアンによって八つ裂きにされていただろうが、そんな望外の幸運に気付けるだけの思考さえマサキには残っていなかった。ずるずると這うような足取りで殺風景なリビングに置かれた棚まで歩くと、そこで崩れ落ちる。その振動で、棚の上の写真が写真立てごと落下した。
「ぁ……ぁぁ……」
意味のない呻きが口から漏れた。一度枯れた涙が思い出したように今更頬を伝う。
――もう、箱には何も残っていなかった。彼との希望も、猫の死体さえも。
頭の中をとめどない絶望と悲壮感がぐるぐると渦巻き、時間だけが過ぎていった。夜の蚊帳に呑まれていた空はだんだんと白み始め、やがて東の窓から曙光が覗く。
「……行くか」
小鳥のさえずりを聞き
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