アインクラッド 後編
極夜の入り口
[1/7]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
気が付くと、マサキは白銀の雪原に立ち尽くしていた。視界の左上に表示されたバーは、たった一ドットを残すのみ。目の前にはボスが担いでいた頭陀袋だけが残り、ボスだったものの成れの果てが青白い残り火を撒き散らしながら消えていく。やがて頭陀袋までもが消え失せ、中に含まれていた膨大なコルとアイテムがストレージに流れ込む。
判然としない意識でマサキはアイテムストレージを開き、《蘇生アイテム》を探した。表示される名前を眺めながら、最大所持限界ぎりぎりまで詰め込まれたストレージをフリックしていく。
やけに長く感じた数十秒が過ぎ去った後に、おびただしい数のアイテムの中に《還魂の聖晶石》と言う名が埋もれているのを見つけた。瞬間、心臓が今まで拍動を忘れていたのかと疑うくらいに大きく飛び跳ね、朦朧とした思考がぱあっと開けた。
「……あった、のか?」
不意に、横から尋ねる声。マサキが首を動かすと、キリトが片手剣を背中の鞘に戻すことすらしないまま、こちらを覗いていた。キリトのストレージには《蘇生アイテム》はなかったのだろう(当然といえば当然だが)。
マサキは小さく頷いて返すと、《還魂の聖晶石》と回復結晶二つをオブジェクト化させた。まずウインドウメニューから《還魂の聖晶石》を選択し、続いて“所有権放棄”アイコンをタップ、虹色に輝く結晶をキリトに向かって掲げた後、投げ捨てた。これで、この虹色の結晶はそこらの石と同じ扱いでしかない。
マサキは再び蒼風を鞘から抜き放ち、同時に左手の回復結晶のうち一つをキリトに投げた。キリトは無言で受け取ると、同じように鞘から剣を抜いた。数秒後、回復結晶の使用を意味する「ヒール」の呪文が短く唱えられた。共に真紅に色づいた二つのHPバーが一瞬で全快する。
そして、二人はデュエルの設定はおろか、唯一つの単語も交わさぬままに、同時に足元の雪を蹴った。
自分がオレンジに堕ちることなど、微塵も厭わなかった。
一人を助けるために一人を殺す。
そんな明白な矛盾に気付く思考力さえ、もう残されてはいなかった。
舞い落ちる雪の欠片の中に、二色の光芒が混じった。漆黒に浸かった夜の世界を、二つの剣閃が疾駆する。
キリトの初手が突進技《ソニックリープ》であることを筋肉の動きから予測していたマサキは、真正面から迎え撃つように走りだす。
そして、予想通りキリトの《ソニックリープ》が発動しかけたその瞬間。明らかに刀身長が足りないにも関わらず、右手の蒼風を振るった。早すぎるその挙動にキリトの顔に疑念が過ぎるが、すぐに振り払って仄かに色づいた剣先をマサキに向ける。
そして、次の瞬間。明らかに刀身が伸びた蒼風を前にして、キリトは表情を驚愕に染めた。
風刀スキル《|春嵐《はる
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ