8部分:第一幕その八
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ぐ後について行った。残ったのはそのケルビーノとフィガロ、スザンナとなったがここでフィガロは内心思った。
(これはいい)
何と実は伯爵の今の処置に満足していたのだった。
(スザンナにも寄って来ているしな。いなくなって幸いだ)
彼には彼の思惑があった。しかし今はそれを隠してケルビーノに対して先輩の威厳を以って告げるのだった。
「行く前にだ」
「行く前にって・・・・・・」
フィガロにまで言われて泣きそうな顔になるケルビーノだった。
「フィガロまでそんなこと言うの?」
「残念だがな」
ここでも本心は隠している。
「しかしだ。出発する前に言おう」
「何を?」
「運命を左右する時だからな」
やたらと勿体をつけている。
「言おう。それは」
「それは?」
「この言葉だ。さて、言おう」
早速はじめてその言葉は。
「もう飛ぶまいこの蝶々。夜も昼も跳びまわり花の周り飛び回る罪作りなこの蝶々」
まずはケルビーノへの皮肉だった。
「可愛いナルシス、愛しのアドニス」
今度はケルビーノをこう例える。
「奇麗な羽毛も華やかな飾りの帽子も派手な服も長い髪ももうないのだ」
「どうしてなんだい?」
「軍人だからだ。軍人は化粧もない。大きな口髭生やし」
「髭・・・・・・」
ケルビーノは咄嗟に自分の鼻の下を触ってしまった。今は生える素振りすらない。この時代貴族達は髪を伸ばし化粧をして髭を剃っていたのである。
「大嚢背負い肩には銃に腰にはサーベル」
完全に軍人である。
「高い襟に大きな帽子。名誉は高く財布は軽い。ファンダンゴの代わりに泥の中や山や谷を行進する」
「な、何だよそれ」
ケルビーノはフィガロの話を聞いて思わず声をあげる。
「全然よくないじゃないか」
「雪や暑さもものとせずラッパの音に合わせて進む」
「うわ・・・・・・」
さらに嫌な気持ちになってきていた。
「臼砲や大砲の音が響き弾丸の音が耳をつんざく。さあケルビーノ」
「地獄じゃないか、それって」
「輝かしい栄光と勝利に向かうのだ。偉大なる軍人の栄光に向かって」
「最悪じゃないか、それって・・・・・・」
フィガロの囃しの言葉にこの上なく落胆するケルビーノだった。スザンナから前線には出ないと言われてもそれでもだった。彼の落胆は人生で最大のものだった。しかもフィガロは囃しながら楽しく足踏みのダンスまで踊っていた。
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