第百三十五話 退きの戦その十
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「次から次にな」
「そうじゃ、御主には負けんぞ」
「それはわしの台詞よ」
右に槍、左に刀を持ち両手で戦う嘉明への言葉だ。
「わしもこれまで以上にじゃ」
「戦ってか」
「武勲を挙げてやるわ、見よ」
福島は足軽の一人に槍を突き出しその腹を貫いた、それからその足軽を高々と掲げてそのうえで前に放り投げてみせた。
その放り投げた骸でも何人も吹き飛ばしてみせる、そうしてから言うのだ。
「これがわしの武じゃ」
「ほう、やるのう」
「御主にこうしたことが出来るか」
「せぬだけじゃ。これがわしのやり方じゃ」
右の槍で突き左の刀で斬る、それを同時にして周りの者達を倒して返事としていた。
「この通りな」
「それがか」
「そういうことじゃ」
こう言うのだった。
「これでわかったな」
「まあな。しかしそれでも負けぬわ」
「わしにはか」
「浅井朝倉だけでなくな」
福島にもだというのだ。
「勝ってみせるぞ」
「では見せてもらうわ、御主のその戦をな」
福島も不敵に返す、彼等も戦っていた。
無論加藤清正もだ、その十字槍が唸っていた。
その槍で朝倉の兵達も浅井の兵達も倒していく、長政は暴れる七人を見てその槍をさらに強く握ったうえで出ようとする。
しかしその彼を傍の者達が止めた。
「殿、幾ら何でもそれは」
「お止めになって下さい」
「しかしだ」
「いえ、ここで殿に何かあってはどうにもなりませぬ」
「兵の指揮が出来ません」
だからだというのだ、実際に浅井家の軍は長政があってのことだ、その彼に万が一のことがあってはなのだ。
「ですからそれだけはです」
「慎んで下さい」
「仕方ないか」
七人は馬上ではなく足で立っている、長政は馬上だ。その違いがあってもだった。
「七人が相手ではか」
「はい、しかもです」
傍の者の一人がまた言って来た。
「兵達がかなり倒されています」
「織田家も勢いづいています」
派手に暴れる七人のせいでそうなっていた、しかもそれを見逃す羽柴ではない。
彼はここで一気に攻めに入り朝倉、浅いの軍勢を攻めていた。それでだった。
「今は残念ですが」
「一旦」
「仕方ないか」
長政も戦局を見ている、それでだった。
歯噛みしつつも断を下した、今は。
「一旦下がれ」
「はい、それでは」
「今は」
「手強いのう」
長政は家臣達が己の言葉に頷くのを見ながら歯噛みしたまま言葉を出した。
「誰じゃ後詰は」
「はい、羽柴秀吉殿です」
忍の一人が言って来た。
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