プロローグ
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終わりだ。2日目、囚人たちは、前日に掘った穴を全部埋めるように命令される。穴を埋めたらそれでその日の仕事は終わりだ。そして、3日目、囚人たちは再度、1日目に掘り、2日目に埋めた穴を、また掘ることを命じられるのだ。囚人たちは命令通り埋めた穴を掘る。そして次の日、掘った同じ穴を埋めるように命令され、穴を埋める。「同じ穴を掘っては埋める」という繰り返しを与儀なくされた囚人の多くは10日目あたりで狂っちまうそうだ。
だが、俺はこの囚人たちは幸福だと思う。少なくともそいつらは掘っている間は次の日埋めるために生きられることを心の中で理解しているからだ。自分を閉じ込めるための穴を自分で掘っていたと気づいた時のガキの気持ちがわかるか?俺は死ぬ、ここで死ぬ。この小さな納屋の中の小さな穴で誰にも見つかることなく餓死するのだ。それだけは御免だ。精いっぱい息を吸い、大きな声で親父に助けを求めた。僕が何かしたなら謝ります、ごめんなさいもうしません、見上げた負け犬根性だ。だが、当時の俺は無力、両親の顔色を見ながらおどおどと生活しているちっぽけなガキだった。
そしたら穴の上から顔を出した親父が何て言ったと思う?醜悪な憎ったらしいニタニタ笑いを顔に張り付けてこう言ったのさ「俺が今どんな顔してると思う?」
あとのことは覚えていない。たしか散歩に通りかかった老夫婦が見つけてくれたんだったか、とにかくかなりの時間が経っていたはずだ。お袋は親父を責めなかった。目を腫らし、泥だらけで家に戻った俺を一瞥し、シャワーを浴びろと怒鳴り散らした。この家に俺の居場所はもうないと悟った俺はすぐに家を出た。もともと自分の持ち物なんてほとんどない、古いリュックサックに自分の持ち物を入れ、空いた片手でドアを押すと、親父が立っていた。俺を見る親父の目はお袋と一緒だ、相変わらずニタニタしてはいるが感情のこもってない白けた目、本当に俺のことが見えているのだろうか、少なくとも自分のガキを見る目じゃない。不意に親父が俺の方に手を伸ばしてきたのに気づき俺は身構えたが左手がリュックに引っかかりうまく顔を隠すことができない、中の荷物がうるさく音を立てその音が大袈裟に恐怖心を煽った。
親父は俺を殴らなかった、差し出されたその手には銀色のオイルライター。手渡されたそのライターは俺の手には重く、片手でささえるのは非常に困難だった。もう俺は振り返らなかった、親父の顔を見ることもなく家を出た。
このオイルライターが親父からの旅の手向けなんかではなく、どこへ行こうとお前は俺の煙草の火つけだというメッセージだと理解したのは----------------それから数年後のことだ。
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