お母さんとドーラちゃん
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「ドーラ。私の、可愛い、ドーラ」
目の前には、新生児の私に向かって呼びかけるマーサさん、ていうかママン。
鈴を転がすような、とはこういう声のことを言うんでしょうね!
まあ目の前と言っても、見えないんですけどね!顔が!ぼんやりとしか!
声が聞き取れるだけマシと思わねばならないんだろうが、全く残念にも程がある!
パパンが駆け落ちする程惚れ込んで、王妃として過ごした極短い期間で国民のハートを鷲掴みにし、さらにパパンを王位も国も棄てて救出に走らせる、絶世の美女(推定、だが確信)が!
鼻先がくっつくほどの距離(推定)で、私だけに!語りかけていると言うのに!!
こうなったら輪郭と色合いのイメージだけでも目に焼き付けてやる、あとこの美声も脳内再生余裕な感じで記憶してやる、と思いつつ、見えないなりにママンを見つめ返す私。
ママンが、ふっと微笑んだような気配があります。
「……なんだか、もう目がちゃんと見えてるみたいね。そんなに、じっと見詰めて」
残念ながら、見えません!
すごく、見たいけど!!
「ドーラ。私の言ってることが、わかるかしら?」
そんなわけ無いというように、ちょっとおどけた感じで言うママン。
わかります!そこは完全に、わかってます!!
「私ね。とっても幸せよ。あの人、パパスと、ドーラ、あなたに逢えて。私に、こんな幸せが来るなんて。思って無かったのに」
やっぱり、籠の鳥みたいな生活をしてたんですかね?
一生独り身ということは無くても、いずれは村の、優秀な男を宛がわれる予定で。
……許せん!
ひとりの人間の人生を、なんだと思ってるんだ!(まだ予想段階だけれども)
私がちゃんと動いたり話したり出来るようになるまで一緒にいられるなら、もっともっと、可愛い子供を授かった幸せを!
温かい家庭に恵まれた幸せを、実感させてあげるのに!
「ドーラ。幸せに、なりましょうね。あなたと、私と、あの人と。みんなと、一緒に。幸せな日々を重ねて、幸せな思い出を作って。そしていつかあなたも、あなただけの相手を、見付けてね」
そんなことが、本当にできたらいいのに。
……いや!
ゲーム通りの流れをなぞることしかできないなら、なんのための転生だ!
新生児の、赤ん坊の私に、この人を引き留めることは、できなくても。
今は守ってもらうしか、できなくても。
この人が生きてる間に力を付けることは、間違い無くできるんだ。
「たとえ、私が見届けることが出来なくても。聞こえてるなら、覚えていて。それでも私は、本当に。あなたが幸せでいてくれるなら、本当に、幸せだから」
本当に幸せそうな声で、寂しさを滲ませて、そんなことを言わないでください
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