1-2話
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のだと。
頭の中で警鐘が鳴る。
何もわからない、事態を把握できないという状況において、何か行動しないといけないという焦燥感がアタシを急き立てる。
いつ命を落としてもおかしくないような世界の中で培ったこの直感は、時として女のカンのように強烈な説得力を持つ。
そう判断して行動に移すのはすぐだった。
こんな鉄の棺桶の中に燻っていられない。
少なくとも外に“繋がらがない”限り、何かあっても対処できなければ、棺桶という比喩が冗談でなくなってしまう可能性がある。
アタシはショルダーバッグを取り、慌てふためく乗客らに目もくれず、避難用出入口へと向かった。
ブーツが通路を叩くような早歩きで真っ直ぐ通路を突き進む。
途中で何人かが廊下で右往左往していた。 アタシは立ち止まらずに避けたりはするが、邪魔なようなら乱暴に突き飛ばした。
だがそれに怒りを覚える者はいない。
このような混乱は人に平常心を失わせる。
場に呑まれて個の理性が失う異常な空間の中、誰もアタシという存在に気に留める事はない。
自分の身に何が起こっているのかわからず興奮状態に陥っていて、突き飛ばされた事に対して怒りを覚える間がないのだ。
ここは異常だから、自分のようにこういう事に慣れてしまっている人間か、あるいは恐怖というモノに対して己を保てるような強い心を持った者でないと、奮い立つ事はできない。
「な、なぁあんた!」
そんなまさかだった。
この状況の中で、理性を残した声がアタシを呼びかける者がいた。
雑音のように声が混じり合っている環境なのにやけに耳に通る若い声。
危機感をよそに、アタシはその声の方に振り向いた。
「……―――」
そこにいたのは一人の男の子だった。
呼び止めるために手を伸ばした姿勢のまま固まり、アタシと視線を交差させる。
まっすぐな目だ。
緩い顔だけど、未熟ながらも芯を持っているイイ瞳を中心に湛えていた。
初めて見る男の子。
学生らしき風貌をさせた。
かつての“あいつ”に似てる子…。
胸の奥から懐かしさと痛みとやるせなさが込み上げる。
それと同時に…アタシの中で、目の前の彼に対する強い意識と印象が産まれる。
睨みつけるように男の子を見る。
視線は目に…その中心にある瞳に焦点を絞る。
奥に仕舞い込んだ記憶を重ね合わせるように、“あいつ”と近しいものが宿らせたその目を覗き込む。
顔も髪型も年齢も空気も…当たり前だが“あいつ”とは違う。 だけど…それでも似通った印象が彼の中にある。
アタシにとっては過去のもので…愛しいもので…憎
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