1-2話
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プを掴み取り、宙を飛ぶコーヒーを掬い上げるように持ち上げた。
コップを持った手は、扇状に広がる液体の動きに沿って翻す。
一瞬の内に、一滴たりとも溢れ落とす事なく全てコップの中に収まり、チャプ…とコーヒーが軽く跳ねるに終わった。
CAの顔を窺うと、あ…ぁぅ…と狼狽していた。
緊張に続くハプニングから、目の前で起きた妙技を見せられたら言葉を無くすものだろう。
「……気を付けてね」
それだけ言ってやった。
本音を言えば、ミルクを注いでもう少し冷ましてほしかったが、狼狽したままだとどんなドジをするかわかったものじゃない。
「す、す、すみません!」
やはり新米だ。
慌ててギクシャクした謝り方をする辺り、どうも慣れていないのだろう。
アタシとしてはこの程度の事で怒るつもりはないので、適当に返事してコーヒーを口に含んだ。
「(…熱い)」
やっぱり熱くて、舌がヒリヒリした。
「…では、ごゆっく…―――」
そんなお決まりのセリフを聞く時だった。
違和感を“感じた”。
「―――」
それはまるで体が分裂するかのような、物理的にピントが歪む。
天地がひっくり返るように、グラリ、と上下が入れ混じって目が回る。
彼岸の境界線を超えたかのように、何かが乖離してしまいそうな気持ち悪さが襲う。
そんな違和感。
だが…そんな現象がアタシの肉体に起きるわけがない。
変わったのは……密閉された空間の、鉄の壁向こうに広がる『世界』。
そこに繋がるアタシの“感覚”がズレたのだ―――。
次の刹那、旅客機が激しく揺れた。
「きゃああぁぁぁぁあっ!!」
強烈な浮遊感。
地に足が付かなくなり、天井に叩きつけられるほどの重力への反逆が襲い掛かり、一瞬にして辺りは阿鼻叫喚に包まれる。
突然の出来事に誰もが状況についていけず、人々はわけもわからず叫び出す。
宙に浮かぶ感覚を覚える中、アタシの視界でシートベルトしていなかった者等が紙屑のように荒れ乱れる。
アタシだけは冷静に、その重力に沿わない運動の流れの中にいた。
天井にぶつかろうとすれば逆さまに着地し、横へと流されそうなら適当な所に捕まり、飛来してくる物体があれば人間以外なら遠慮なく蹴り飛ばした。
事程度の“些事”は慣れたものだ。 オフロードを走る輸送車に迫撃砲を撃ち込まれるのと比べれば大差ない。
波紋は続く。
何らかの“一線”を超えた旅客機はまさに、水面に落とした一滴の水だ。
一滴がもたらした波紋は押しては引いていくかの如く、旅客機はその波に揉まれている。
しかし、波紋はやがてさざ波一つない静かな水面へと静まる。
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