1-2話
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浅い眠りからアタシは目覚めた。
夢も何も見ない、意識を切るためだけの休息は短いものだった。
眠いながらもリクライニングシートから上半身を起こした。
安眠にはほど遠いが、そこから自然でない意識の覚醒に不快になる。
耳朶に響く耳鳴りと、同時に開く感覚の窮屈さに迎えられ、尚更不快になった。
隔絶された閉鎖感に息苦しくなる……意識が狭い。
何も映らない黒い沈黙から目覚めると、喧騒が聞こえた。
眼を開くと視界が上半分だけ切り取られて、その下では学生服を身に包んだ足がウロウロしているのが目につく。
喧しくてこれ以上眠りにつけないと諦めて、頭を隠すために被っていたキャップ帽子のツバを持ち上げた。
周りは狭苦しい乗り物の閉鎖空間で、それが旅客機の中だという事を思い出す。
そしてこんなにも騒がしいのも、昨日見た修学旅行だと思わしき学生達の帰宅日と重なっていたようだ。
「これも奇縁かしらね…」
貨物船の環境よりは遥かにマシだが喧しいものだ。
人が多く、閉鎖されてる空間はあまり好きではない。 人混みが嫌いなタイプもいるが、アタシのそれとは感覚が違う。
普段から慣れた“感覚”が機内の範囲までしか届かないから、どうしても狭く感じてしまう。
それを誤魔化すために、旅客機が空に上がる前から眠りに着いていたが、発進時の重圧にも頓着しなかったものの、流石に百人を超えるような学生の喧騒は堪える。
「…うるさくて迷惑でしかないけど…眠れないのも困りものね」
気分は悪いが仕方なし、と座り直して隣のシートに置いてあるショルダーバッグに手を伸ばした。
眠りから覚めたあとの習慣として、身の回りのチェックをする。
悪意や殺気があれば即座に飛び起きれるが、何の悪意もなくスリをするやつなどもいるからあまり楽観する事は出来ない。
まぁ日本行きの便だから、日和見主義な日本人が多く乗っているためそんなスリ紛いの事をするやつはなかなかいないだろうが。
ショルダーバッグを開けた形跡はなし。
これの中身を漁ったら、色々と面倒になってしまう所だ。 それはもう一般人は勿論、軍人でも物騒とも思えるほどの代物が詰まってるからだ。
あとは…お財布様(懐が寒いため機嫌が悪い御様子)に、刀剣の柄に、あとは細々としたものばかりだけど、とりあえず取られたものはない。
嫌な習慣が付いたものだ。
平和な暮らしの中にいれば身に付く事がない警戒心。
今ではすっかり慣れた戦う世界の生き方がアタシの中で根付いている。
「ふ……」
チェックし終えて、キャップ帽を被り直す。
眠れない以上暇を持て余してしまう。
アタシの横を学生が喧しく通り過ぎていくのに辟易して頬杖を突く。
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