第三十八話 公的資金
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はしているだろう。
だが帝国では分からない、だから国務尚書リヒテンラーデ侯も財務尚書ゲルラッハ子爵もフェザーンからの資金がこの国の経済にどんな影響を与えるのかが分からない。金の恐ろしさが分からないのだ。だが元の世界で何が起きたかを思い出せばある程度の想定は出来る。
「借金を返済出来ない貴族がどれだけいるか分かりません。仮にこれを全体の五パーセントと見積もれば百五十家の貴族が該当します。一家当たり五億帝国マルクの借金としても七百五十億帝国マルクの不良債権が帝国には有るのです。これを潰せば当然ですがフェザーンの金融機関、商人は大打撃を受ける事になる」
「……確かに」
フレーゲル内務尚書が頷いた。
「これまではフェザーンの金融機関、商人にとって貴族というのはもっとも安心できる融資先でした。しかし帝国の現政権が貴族の保護をしないとなれば何が起きるか……」
「……なるほど、フェザーンは融資を引き揚げますな」
ゲルラッハ子爵が深刻な表情で呟く。他のメンバーも不安そうな表情だ。ようやく危険だと分かってきたらしい。
だが帝国で起きるのは融資の引き上げなどという生易しいものではないだろう。おそらくは貸し剥がしに近い状況が発生するはずだ。そうなれば領地経営が良好な貴族も苦境に陥らざるをえない。本来なら破綻せずに済む貴族も次々に破綻する事になる。そして貸し剥がしの次に起きるのが貸し渋りだろう。貴族への融資は危ないと見て融資を抑えにかかるはずだ。
そうなれば帝国の経済は混乱し麻痺し停滞する。そして貸し剥がし、貸し渋りは貴族だけではなく民間にも及ぶだろう。混乱と麻痺と停滞はさらに酷いものとなる……。俺がその事を説明すると皆の顔が蒼褪めた。当然だ、改革どころか革命が起きかねない状況だろう。俺達は皆、首が飛ぶ。
「元来お金というのは非常に貪欲な、そして臆病な生き物なのです。利益になると分かればそこに集まります。しかし危険だと分かればあっという間に逃げ出す……。今ここで負債を抱えた貴族を潰してしまえば、フェザーンの金融機関、商人達は帝国政府は貴族達を救済する事無く整理しようとしていると判断するでしょう。あっという間にフェザーンからの資金は帝国から逃げ出しますよ、とんでもない騒ぎになる」
俺が話し終わると暫くの間沈黙が落ちた。
「……だから救済すると言うのか」
声が掠れていた。それに気付いたのだろう、リヒテンラーデ侯が不機嫌そうな表情で紅茶を口に運んだ。
「潰す事が出来ない以上救済するしかありません。救済して借金を帝国に対して支払わせる。そして平民への権利拡大、フェザーン資金の監視、貴族達の抑制のために役立たせるのです……」
リヒテンラーデ侯が溜息を吐いた。俺も溜息を吐きたい気分だ。義父(おやじ)殿もリッテンハイム侯もそしてゲルラッハ
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