34部分:第三幕その十一
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第三幕その十一
「何としてもだ。わかったら下がれ」
「それではその処罰ですが」
しかしバルバリーナも引かない。にこりと笑ったままであるがそれでも伯爵を前にして一歩も引かないのであった。
「誰かのものとするというのはどうでしょうか」
「奴隷か?」
「そんなところです」
微笑んで述べてみせた。
「そうです。ケルビーノを私に」
「そなたにか」
「そうです。私の奴隷に下さい」
こう言うのだった。
「私のお婿さんに。如何でしょうか」
「それでいいのではなくて?」
夫人はすかさずこのタイミングで夫に告げた。
「処罰はそれで」
「ううむ」
「何とまあ」
アントーニオは己の娘の今のやり取りを最後まで見聞きしたうえであらためて感嘆の言葉を漏らした。
「頭の回る娘だ。何だかんだで婿を手に入れたわ」
「参った」
伯爵はまたしても呻くだけになってしまった。
「こうなっては。私も」
「寛容ですわね」
「その通りだ」
「それでは今度は」
完全にバルバリーナのペースであった。
「寛容な処罰を」
「わかった」
遂にそれを認めたのだった。バルバリーナはケルビーノを抱き締めて喜び伯爵は憮然とするしかなかった。伯爵にとってはまたしても納得のいかない結末になってしまった。
「あっ、こちらでしたか」
伯爵がバルバリーナの言葉を受けるしかなく困っていると今度はフィガロがやって来た。そうして一礼してから明るい声で言ってきた。
「伯爵様、この娘達ですが」
「どうしろというのだ?」
「ここは残ってもらって宴の歌や踊りに」
「はい、そのつもりで参りました」
「宜しく御願いします」
娘達も笑顔でフィガロに応える。これでこの話も決まったかと思われたが伯爵がここでフィガロに対していぶかしむ顔で問うたのだった。
「待て」
「何でしょうか」
「踊るのだな」
「はい、そうですが」
「そなたもか?」
目は思いきり怪しむものであった。
「そなたも踊るのか?」
「それが何か?」
「くじいた足でか」
先程の話を忘れていなかったのである。
「その足で踊るのか」
「はい、そうですが」
足をまっすぐにしてみせてから踊りの仕草をしてみせるフィガロだった。
「それが何か?」
「くじいた足で踊れるのか?」
「そうだったわ」
夫人は話を聞いていてこのことを思い出したのだった。
「フィガロ。さっき言い繕って」
「奥方様、御安心下さい」
しかしここでまたスザンナが彼女にそっと囁いて安心させる。
「フィガロは切り抜けられますわ」
「けれどあの人もあれで結構鋭いから」
夫のことはよくわかっていた。伊達に夫婦ではない。それで不安だったのだがそれでも。フィガロは充分に伯爵と渡り合っているのだった。
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