苦手
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「よお進藤」
「げ、緒方先生」
文化祭から一週間、ヒカルが最も苦手とする人物がタバコをふかせながら壁に寄りかかって立っていた。手合い室を出たらすぐの所だが、ヒカルを除いて誰一人終局していないから、ここはしんとしている。後ろからは碁石を置く音がぱちぱち聞こえてくる。
「昨日藤原さんと先生の対局を見たか?」
緒方が藤原さんと呼ぶのは何か違和感があって、何かしっくりこなかった。
「み、見たけど」
緒方はヒカルの反応を見ると、「くっく」と笑い、こう言った。
「奢ってやるから食事でもどうだ?」
それを聞いた瞬間、あまりの拒否感にヒカルの顔は歪み、一歩後ずさった。
「お前いつまで俺を不審者扱いしてるんだよ」
「別に、不審者となんか思ってないけど・・・。でも食事はいいよ。今日は用事があるから」
本当は用事なんかないが、緒方の誘いのことを思えばすぐに口から嘘が出てきたのだ。緒方が手を前に出してくる。
「な、なに」
ヒカルが疑問の目を向けると、緒方は当然のようにこう言った。
「本当に用事があるのか確かめてやる。携帯を出せ」
ヒカルは息をのんで、緒方の意地悪そうな顔を見つめる。すぐに携帯を出さないヒカルに、「勝った」と言わんばかりの満面の笑みを向けてくる。ヒカルはその表情を見て、自分に逃げ場はないと悟り、仕方なく了承した。
「じゃあラーメン・・・」
「却下」
途中で遮られ、ヒカルはやっぱりこの人とは食事に行きたくはないと改めて思った。
「じゃあ・・・」
「俺に任せとけ。行くぞ」
緒方はヒカルの腕をとってエレベーターへと進んだ。タバコの匂いが鼻を掠めて思わず顔をしかめてしまう。結局自分が決めるんじゃんか。そう思って間もなく緒方が振り返るものだから、ヒカルは明後日の方向を向いて、しかめっ面を無理やり和らげた。
「仕方ない。ラーメンだな」
「え、いいの?」
「これが大人の対応ってやつだ」
あんたのどこが大人なんだよ。ヒカルは緒方の後ろ姿を睨んで頭の中で悪態をついた。
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