第一章〜囚われの少女〜
第十幕『ジャックの苦悩』
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軽蔑するような者は決していないのだ。
一方、団長の方は表情一つ変えずに――
「それじゃあ好きにしてもらうよ、ジャック。アンタは盗賊失格よ」
その言葉は、団からの追放を意味していた。周りの者は息を飲む。
「……やんのかやんないのか、港に着くまでに外で頭冷やして来な!」
そして厳しく、団長はジャックに言い放った。受け取り方によっては考えるチャンスを与える言葉だが、ジャックは納得いかないといった顔をしたまま、部屋を後にした。
「さて……。と、なると代案を考えないと行けないわね。演目は、変更ね」
――盗賊団の会議は夜更けまで終わらない。
「くそっ……なんで僕が。なんで……僕なんだ」
盗賊団を辞めるか、辞めないか。……でも――自分にはどうしても女性に触ることができない。どうすれば、一体どうすればいいんだ……。
独り、ジャックは夜風に当たりながら、己の運命を苦悩していた。
――
港に着くまでに、僕の決心は固まりそうにない。いや、揺らぐには到底何が起きようと不可能だ。姫を抱きかかえようとした瞬間無様な姿に成り果て、大悪人として首を刎ねられること以外想像できない。
「…………っ!?」ジャックの頭は突如として、割れるような痛みに襲われた。そこからの出来事をジャックは――自らの知る術を失った。
お母さん! お母さん! ここはどこなの? どこに行っちゃったの? 僕のことを置いて行っちゃったの?
僕はどうしたらいいの? お母さん。ねぇ、お母さん? どこ? どこにいるの? ――失われた意識の中で、幼き日の少年の声がする。
(僕は……どうしたらいい? また、ひとりになってどうするんだ?)
ジャックは夢の中で、自らの人生をかえりみる――幼い頃。母親に捨てられて以来、女が嫌いになった。
自分が女だと思う人物には、触れることも触れられることも恐ろしい。感覚でだが、半径1m以内に女の気配を感じただけで、とてつもない寒気に襲われる。
その度に心は氷のように鋭くなり、その対象に対して嫌悪感を感じる。触れたり触れられたりすると、体中に起こるかゆみ、頭痛や吐き気などの症状に苦しむことになる。
なにも、母親に捨てられたくらいでそこまでなるものかと、そんな風に言われた事もあった。だったらなぜ僕は、そんな風になってしまったんだろう。
盗賊団『マスカレード』に拾われた後の苦労は、生半可なものではなかった。人を殺すような行為こそしなかったものの――今はこのことは忘れよう。思い出すだけで頭が痛くなる…………。
――もうこれ以上ここにいることは無理みたいだ。僕は思い出してしまった。意識を失っている最中ということを――
目覚めたとき、少年はその場から姿を消した。
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