第百三十五話 退きの戦その五
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「ではじゃ」
「うむ、まずは鉄砲じゃな」
「それになるな」
「わしも撃つか」
蜂須賀も鉄砲を手にしていた、そのうえでだった。
「ここはな」
「御主も撃つのか」
「ここは」
「うむ、この戦は違うからな」
だからだというのだ。
「撃つぞ」
「そうか、ではな」
「我等もじゃ」
加藤も福島も鉄砲を握る、他の七将達もだ。
彼等は迫り来るであろう浅井家を迎え撃とうとしていた、戦はいよいよ正念場に入ろうとしていた。その彼等にだ。
遂に浅井家の軍勢が来た、その先頭には長政がいる。
長政はその右手に持つ槍を軍配代わりとしそのうえで己の兵達に告げていた。
「よいか、このままだ」
「はい、織田家の後詰にですな」
「攻め込みますか」
「うむ、そうだ」
まさにそうするというのだ。
「そうして一気に叩き潰すぞ」
「そしてそれからですな」
「織田家の本軍に襲い掛かりますか」
「如何な大軍とて退く時に襲い掛かれば勝てる」
十倍以上の相手だ、それでもだというのだ。
「だからこそだ」
「一気に攻め込み」
「ここで織田軍を逃しては危うい」
長政にはこのことがよくわかっていた、織田家はただ兵の数が多いだけではないのだ。
将帥も揃っている、さらにだ。
「義兄上を侮ってはならぬ」
「右大臣殿ですか」
「あの方ですな」
「そうじゃ、右大臣殿を討たねばな」
この戦は勝ったことにはならないというのだ。
「何にもならんが」
「その右大臣殿ですが」
ここで長政の横に浅井家の忍の者が来た、その彼が報を述べる。
「行方がわかりませぬ」
「本軍にはおらんか」
「その様です」
こう言うのだ。
「本軍には柴田殿、佐久間殿、丹羽殿という方々がおられますが」
「織田家の主な将帥の方々がじゃな」
「はい、ですが」
そうした織田家の主な将帥達が揃っている、だがだというのだ。
「右大臣殿だけは」
「おられぬか」
「お姿を見ませぬ」
こう言うのだ。
「琵琶湖の方に密かに船を出し見てもいますが」
「ふむ、左様か」
「これは妙かと」
忍の者は声を深刻なものにさせて長政に言う。顔は忍者の頭巾で下半分が隠れているので表情は見えない。
だがそれでもこう言うのだ。
「本来ならばおられるべき方がおられませぬ」
「そうじゃな、有り得ぬな」
「どういうことでありましょうか」
「若しや」
長政はふと思った、後詰にいる筈がない。そして本陣にもいないとなると。
「真っ先に退かれたのか」
「真っ先といいますと」
「本軍より先に都に向かって退かれたのじゃ」
そうしたのではないかというのだ。
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