第百三十五話 退きの戦その四
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「死にたくなかろう」
「絶対に生きて帰ってみせます」
「何があろうとも」
「それならばじゃ」
羽柴は彼等の言葉を受けて確かな声で述べた、そしてだった。
羽柴が率いる後詰は朝倉の軍勢が怯んだのを見て素早く下がった、こうして最初の攻撃は退けたのだった。
だがその朝倉の軍勢を離しながらだ、羽柴は傍らにいる弟の秀長に言った。
「朝倉の軍勢は何とかなるがな」
「問題は浅井殿ですな」
「うむ、浅井殿は手強いぞ」
このことがよくわかっているからこそ言うのだった、羽柴の顔は朝倉の大軍を一旦引き離してもまだにこりとしていない。
「朝倉よりもな」
「数は少ないですが」
「その強さはまるで違う」
「長政様が立派であられるが故に」
長政の将としての采配は見事だ、それが浅井家の軍勢の強さをさらに際立たせているのだ。
「手強いですな」
「そろそろその浅井殿の軍勢も来るぞ」
「間違いなく」
「その戦いはかなり激しい」
そうなるというのだ。
「正念場じゃな」
「その通りですな、ここは」
「さて、鉄砲はじゃ」
その肝心の鉄砲の話もする。
「退きながら弾を込めるか」
「いえ、それは」
秀長は羽柴がこう言ったのをここで止めた。
「止められた方がいいです」
「一旦足を止めてもか」
「鉄砲は特別です、しかと弾を込めねば使いものになりませぬ」
「ではか」
「鉄砲を込めるのは思ったより時がかかりませぬ、少なくとも今はです」
「その暇があるか」
「そう思います」
兄に対して確かな顔で告げる。
「ですから込められるなら今のうちに」
「わかった、それではな」
羽柴も弟の言葉に頷き鉄砲の弾を込めさせた、そしてだった。
すぐにまた軍を退かせる、今彼等は琵琶湖の北岸にいた。
その琵琶湖を見ながらだ、加藤が言う。
「琵琶湖の西を南に下がってな」
「それでじゃな」
「うむ、近江の南まで下がらねばな」
近江の南は織田家の領地だ、北が浅井家の領地となっている。
「安心出来んわ」
「そうじゃな、今はな」
福島も琵琶湖を見る、二人共その目はかなり険しい。
「ここは浅井殿の国じゃからな」
「地の利も向こうにあるわ」
加藤は福島にこのことも言った。
「それだけに浅井殿の攻めは凄いぞ」
「味方ならば頼りになる方じゃが」
「敵に回ると恐ろしいのう」
「出来れば敵にしたくはなかったわ」
「全くじゃ」
二人でこうも話す。
「この戦、厳しいものになるわ」
「わかっておることとはいえな」
「来たぞ」
蜂須賀が目の前を見て二人に告げた。
「紺じゃ、今来た敵は」
「浅井殿か」
「遂に来られたわ」
「凄い速さで突っ込んで来るわ」
蜂須賀はその浅井の軍勢を見ながら二人にまた言う。
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