第百三十五話 退きの戦その一
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第百三十五話 退きの戦
信長は一路都に向かっていた、馬で進むその速さはかなりのものだった。
その周りには森と池田、それに毛利と服部がいる。その森が信長に言う。
「殿、間も無くですが」
「うむ、何処に至る」
「朽木殿の領内に入ります」
「朽木守綱か」
信長は朽木と聞いてその名まで呟いた。
「あの者か」
「はい、近江の国人の」
「確かあの者は公方様に代々お仕えしているな」
「義昭様を匿われたこともあります」
「そうじゃったな、その朽木か」
「公方様への忠義は篤いですが」
それでもだとだ、森は言う。
「しかし我等に対しては」
「わからないのじゃな」
「はい、そうです」
森は正面を進みながら信長に話す。
「果たして我等を通してくれるか」
「朽木殿と当家は何もありませぬが」
池田も馬を駆けさせながら言う。
「しかし近頃の殿と公方様のことは知っておられるでしょう」
「知らぬ筈がないな」
信長もこう言う。
「やはりな」
「そうですな、それでは」
「そう容易に通さぬかもな、いや」
「いや、ですか」
「通さぬかも知れぬ」
信長はその危惧も述べた。
「それも有り得る」
「ですか」
「それでは」
「その場合でもじゃ」
どうするか、信長は強い声で言った。
「通らねばならん」
「ではその時は」
「何があろうとも」
「力押しでは無理じゃからな」
五人だ、それではとてもだった。
「脇を通るか」
「馬から降りてですか」
「山を通り」
「そうするしかないであろうな」
信長は達観して言う。
「そうしてでも都に入らねばどうにもならぬ」
「しかし殿、山は野盗共の巣ですぞ」
池田が怪訝な顔で信長に語った。
「ですから山を使うことは」
「危ういというのじゃな」
「はい、間も無く軍勢も追いついてくるでしょうし」
「それを待ってか」
「軍を率いてなら朽木殿も頷くでしょう」
僅か数人で来るのなら怖がることはないが軍を率いてならというのだ、池田は軍勢の降下をわかっていて言うのだ。
「ですからその際は」
「いや、それでは遅い」
信長は池田のその案に首を横に振って返した。
「それではな」
「遅いですか」
「確かに勝三郎の言うことはよい」
それは悪いと言わなかった、決して。
「しかしそれでもじゃ」
「それでもですか」
「そうじゃ、今はそれでは遅いのじゃ」
「軍が来てからでは」
「都には一刻も早く戻らなくてはならぬ」
信長は今も馬を全速で駆けさせている、馬も彼も息を切らさんばかりだ。
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