20部分:第二幕その十二
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第二幕その十二
「一体全体」
「バルコニーの側の鉢植えが壊されました」
「鉢植えが!?」
「はい、よりによってこのカーネーションが」
部屋のすぐ外から車を持って来た。見ればそこには無残に壊された鉢植えが置かれている。それを見て伯爵は怪訝な顔になる。
「庭師のそなたが一番大事にしていた鉢植えだったな」
「よりによってそれがです」
こう言ってまた泣きそうな顔になる。
「何ということか」
「フィガロ」
スザンナと夫人がまたそっとフィガロに囁く。
「気をつけてね」
「いいわね」
「まずいな」
フィガロも怪訝な顔になるのだった。
「ここは」
「それでどうするの?」
「まあ任せてくれ」
フィガロはここでその持ち前の根性を見せるのだった。そうして言う。
「ここはな」
「そうなの」
「そう。伯爵様」
フィガロは早速伯爵に対して言うのだった。
「その酔っ払いはなにをしにここに?」
「しかし誰がそなたの鉢植えを?」
「何者かがバルコニーから飛び降りて」
「この部屋のバルコニーからだな」
「はい」
こう言葉を続けるのだった。
「そうしてです。男の身なりをしていましたが」
「男か」
「ケルビーノか」
伯爵とフィガロがそれぞれ呟く。
「やはりあいつか」
「成程な」
二人共それぞれわかるのだった。
「よし、これで攻められるぞ」
「ふむ、これで守りきれるぞ」
またそれぞれ言う二人だった。ここで伯爵はフィガロに対して言うのだった。
「そなたはまず静かにするのだ」
「わしが酔っ払いだというのか」
アントーニオもフィガロのさっきの言葉にムキになっていた。
「わしは今はしらふだぞ」
「何処がだ。昼間から飲み過ぎだ」
「わしは一滴も飲んではおらん。飲むのは夜と決めておる」
「そうだな」
当然ながら伯爵もそのことは知っている。だからその言葉に納得した顔で頷いた。
「そなたはそういう者だ。だからこそまた聞くが」
「はい」
「この部屋のバルコニーから男が一人だな」
「そうです」
アントーニオは素直に伯爵の言葉に答える。
「その通りです」
「それではだ」
伯爵もおおよその察しがついたのだった。
「その者はだ」
「はい、私です」
しかしここでフィガロが名乗り出たのだった。
「それはわしです」
「えっ!?」
「何っ!?」
この言葉には伯爵達だけでなく夫人もスザンナも絶句したものだった。
「まさかそんな」
「嘘でしょ!?」
「いやいや、わしが言うのが遅れていました」
彼はここぞとばかりにはったりを続ける。
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