第九話 逃走
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追いつかれないように出来るだけ曲がり角を多く利用し、あいつから遠ざかる。人を抱えて走るのは凄まじくしんどいが、ここで降ろすわけにもいかない。
「あ……あの、もう大丈夫、です」
「ダメ、もうちょい、待って!!」
息切れが激しいため所々で言葉を区切るような話し方になってしまった。恐る恐る後ろを確認して、危険が迫ってきていないことに安堵した。
最後に曲がり角を曲がり、そこで足を止めた。
岸本を下ろし、壁に寄りかかる。心配をかけないためにも、座り込むことはしない。
沈黙が続く。
「あの、助けてくれてありがとうございました」
沈黙を破ったのは岸本だった。こちらに体を向け、頭を下げる。
「いや、こいつのおかげさ。なぁジョセフィーヌ二号」
「わふ」
頭をわしゃわしゃと撫で回す。これが終わったらきちんと洗ってやろう。なんか臭う。
「なぁ、黒ちゃんはどうした?」
「……置いていかれた……」
黒野、お前の信頼ががた落ちで大暴落中だ。すまないが俺では修復は不可能。自分で頑張ってくれ。
「まぁ、まだ高校生だ。ゆるしてやってくれ」
「考えとく……」
「さて、今度は黒ちゃんを探さないといけないのか。あいつの存在もあるしなぁ」
正直、平静ぶっているが、内心バクバクだ。怖くてたまらない。しかし、何とか堪えてみせる。目の前にいる女子へのプライドだったり、見ているかもしれない西への反抗だったりもする。
「うーん、どうしようか。正直言って動くとあいつに見つかる可能性高いし、俺だけ黒ちゃん探索しようにもその間に襲われたらやばいし……」
「……」
「わふ」
「いや、ジョセフィーヌ二号がついててもなぁ。俺が黒ちゃん見つけられる自信が無い」
確かに岸本につけば、多少のことは犬が何とかしてくれると思う。けど、俺が黒野を見つけられる可能性が大幅に減ってしまう。
「あの、私もう大丈夫ですよ?」
「いやいや、流石にそれは無いわ」
岸本が言いたいのは俺と犬で黒野を探してきてくれということだろう。流石に無理。今度会ったら確実に殺される。
「さて、どうしたら……ん?」
「わふっ!」
「はは、なんだ手間が省けた。近くにいんじゃん」
はるか遠くに聞こえる叫び声。それと人間とは思えない異形の叫び声。眼にも映ったし、確実だ。
「さぁ、迎えにいくよ。あ、でも見つかったら面倒だからゆっくりね」
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