第二部 文化祭
第8話 歌唱少女
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と唄いきって、皆を圧倒させて、感動させたい。休み時間はいつも、そんな日がきっと来ると信じ、歌に思いを乗せて唄うのだ。
まりあは大きく息を吸い込んだ。
*
──変な日だな、ほんとに。
妹に消毒液ぶっかけられるわ、クラスメートの女の子にはバカ呼ばわりされた挙げ句ひっぱたかれるわ──
──君と一緒に行きたかったのに!
何故だか、アスナの言葉が頭から離れない。
どういう意味だろう?何故俺なんだ。これはもう少し、対人スキルを鍛えておく必要がありそうだ──そんなことを考えながら、廊下を歩いていたその時。
どこからか、歌声が聴こえてきた。
音楽室からだろうか。少し扉が開いている──そのせいで音漏れしてしまっているのだろう。俺は扉を閉めておこうと思い、扉の取っ手に手を掛けようとして──
その寸前で手を止めた。
音楽室から漏れる歌声は、あまりに美しかったのだ。俺は音楽のことなんてよく解らないけど、思わず聴き入ってしまった。
こちらに背を向け唄っているのは、一人の少女。
俺は音を立てないように部屋の隅に立ち尽くしていたが、ポケットに突っ込んだなにかを落としてしまい、カランカラン、と音が立つ。
先ほど直葉から奪った消毒液だ。
ポケットに入れちゃってたのか──。
「……どなたですか?」
少女がバッと振り返る。
アイボリーのロングヘア。パッツンと切り揃えた前髪の奥に、オレンジ色の大きな瞳が覗いた。
俺は慌てて言う。
「い、いや……ちょっと、聴き入ってしまいまして」
「……聴き入った? 私の歌に?」
少女は驚いたように目を見開いた。少し嬉しそうにも見える。
「あ、ああ。廊下歩いてたら、扉の隙間からとても綺麗な声が聴こえてきてですね……すみません、勝手に聴いちゃって」
「いえ、構いませんよ。閉めるの忘れてた私の責任ですし……そんなことより、綺麗って……本当に?」
少女が身を乗り出してくる。俺は「は、はい」と頷いた。少女は幼い女の子のように無垢な笑顔を見せたあと、微笑んだ。
「貴方が初めてですよ。私の歌を褒めて下さるだなんて……ふふ。名前はなんていうのですか? 私は桜まりあ、高等部1年です」
「は、初めて!? ……俺は桐ヶ谷和人、高等部1年。同学年だし、敬語とか使わなくてもいいよな?」
「はい。でも私は、タメ口ってどうも苦手で……あっ、桐ヶ谷くんはご遠慮なくお使い下さいね」
「そうさせてもらうよ」
俺はとりあえず微笑んだ。
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