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フィガロの結婚
17部分:第二幕その九

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第二幕その九

「実はですね」
「ええ」
「ケルビーノはあちからか」
 こう言って窓の方を指差すのだった。
「逃げました」
「そうだったの」
「はい。ですからもう安心です」
 夫人を落ち着かせるようにして微笑んで述べるのだった。
「何もかも」
「そう。よかったわ」
 夫人はここまで聞いてようやく落ち着きを取り戻した。そこに伯爵が戻って来た。
「誰もいない・・・・・・」
「私だけがいました」
「ではこれは私の勘違いだったのか!?」
「そうなりますわね」
 やはりここでもにこにこと笑っているスザンナだった。
「これは」
「大変なことをしてしまった」
 伯爵はここで遂に己の過ちを認めた。
「すまぬ」
 そして妻に対して頭を下げる。
「そなたに迷惑をかけてしまった」
「それは」
「ちょっと焦らしましょう」
 スザンナがそっと夫人に囁く。そんな伯爵を横目で見つつ。
「ここは」
「そうね。それじゃあ」
「許してくれ」
「それは」
 伯爵の詫びの言葉をスザンナに言われるまま焦らす。
「どうしましょうか」
「申し訳ないことをした」
「おわかりですね?」
「うむ。もう二度とこんなことはしない」
 また言う伯爵だった。
「だから許してくれ」
「ですがあなたは先程私に対してあれ程」
「そのことも謝る」
 伯爵も夫人の顔を見ながら必死に謝罪する。
「だからだ。どうしてもだ」
「私の心は深く傷付きました」
「スザンナ」
 伯爵はここで彼女の助け舟を求めた。
「そなたからも言ってくれ」
「私がですか」
「そうだ。私が悪かった」
 彼も今は必死だった。
「だからそなたからも」
「愛して下さっているとは思えなくなってきました」
 夫人もスザンナに合わせている。
「もう」
「だからそれは」
「何故この様な報いを受けるのか。私は」
「そろそろいいのでは?」
 またスザンナがそっと囁く。
「もうこれ位で」
「そうかしら」
「物事は何事も加減が必要ですよ」
 楽しげに笑いながら彼女に囁くのだった。
「ですから」
「そうね。じゃあもう少しで」
「はい」
「もう二度とこんなことはしない」
 伯爵はさらに謝っていた。
「だから。是非」
「そうですわね」
 ここでやっと伯爵は言うのだった。
「それではもう」
「済まないことをした。しかし」
 許してもらえてほっとする伯爵だった。しかし彼はここでまたあることに気付くのだった。
「そういえばだ」
「何か?」
「何故だ?」
 ここで今度は首を捻ってきた。

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