ほぐす
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、閣下ご自身がお作りになったではありませんか」
元々色の薄い下唇が、きゅうっと噛まれて更に色を失った。
「蔑視や差別はそう簡単にはなくなりますまい。ですがその分、閣下が御子を慈しんでやれば良いことです。苦しみをご存じの分、閣下にはそれがおできになるでしょう」
機械の瞳をその瞼の下に隠したまま、オーベルシュタインは僅かに顔をしかめ、口を引き結んだ。
「無理だ……」
ようやく出たその言葉が、結婚云々に関する回答だけでないことを、フェルナーは悟った。
「自分が自分の遺伝子を認められないのだ」
歪んだ顔はそう言っていた。フェルナーは黙ったまま、思わず上官の肩をぎゅっと握った。
「つまらぬ愚痴を聞かせた……。感謝する、フェルナー准将」
すまないではなく感謝するという言葉に、フェルナーは虚を突かれた気がした。多少なりとも上官の心がほぐされたのだろうか。そうであれば良いと、苦悶するような上官の顔を背後から覗く。
私は、あなたの解毒剤になれていますか。
手先に込めていた力を緩めて、フェルナーは首から背中へ向けて流すように数回マッサージをすると、ゆっくりと上官の右脇へと戻った。
「閣下」
そっと声をかけたが、オーベルシュタインは目を開けなかった。眠ってしまったのか、そうしていたいだけなのか、フェルナーにも分からなかった。落ちかけていた白髪交じりの前髪を、試しに静かに掻きあげてやると、
「う…ん……」
と、小さく呻いて、また静かな呼吸を始めた。
奥歯をぐっと噛みしめているのか、しかめ面は変わらない。
「天使の寝顔とは程遠いな」
これでは肩も凝るはずだと、フェルナーは独りごちた。
上官の手元にあった書類を片付けながら、しばらくその様子を眺めていると、控えめなノックの音が静寂を破った。
「閣下、シュルツ中佐です、失礼します」
ドアの前で敬礼をしたシュルツが、軍務尚書と官房長の二名の姿に一瞬息を呑む。
「ど、どういうことですか!?閣下……眠っていらっしゃる?」
フェルナーがにやりと笑って肯くと、シュルツの顔がたちまち赤くなった。
「ずるいですよ、准将!准将ばかりが、こんな閣下の姿をご覧になって!……そ、そうだ、写真、写真を……」
そう言って携帯端末を取り出そうとするシュルツに、フェルナーは咎めるような視線を送った。
「静かにしろよ、シュルツ。……もう少し、俺達だけで『眠れる森の閣下』を堪能しようじゃないか」
声を殺して笑う部下たちに見守られ、オーベルシュタインは束の間のうたた寝を続けていた。
(Ende)
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