ほぐす
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を含め吾々はここまで来たのですし、提督方とて所詮は敵を殺して味方を救っている生き物。一方を犠牲にして一方を助く、その原理は何ら変わらぬではないですか」
フェルナーがいつになく向きになっているように感じられる。
「そうかもしれぬな」
小さく答えて、ふっと息を吐いた。向きになった部下に、オーベルシュタインはなぜだか感謝したい気持ちになった。自分の言いたいことを代弁してくれたような気がしたのかもしれない。
よくよくこの男は理解できぬ。
他の部下たちとは一線を画し、従順とは言えず己の意見を主張し、かといって不快になるまで踏み込んで来ることはしない。
それなのに……
それなのに、気付けばすぐ横におり、こうして凝り固まった自分の世界に、新奇な風を送り込んでくる。
ちょうど良い距離に、この男はいつもいる。
彼にとってそれがメリットになるのか、それとも他の目的があるのか想像もし得ぬが、確かに自分の足元の一部が彼によって支えられているのだと知る。
時々無性に、彼へすべてをぶちまけてしまいたいと思うことがある。
自分の心の澱を、すべて。
「時折……時折な、訳もなく空虚な気分になることがある」
乾いた唇をそっと舐めて、オーベルシュタインは瞑目したままそう言った。声は低く、頼りなげであった。フェルナーは黙って肩を優しくさすりながら、上官の次の言葉を待った。
「言葉を武器にして正論を振りかざし、復讐だけを糧に生きてきた私にとって、陛下が御即位されたのちの余生など、必要があるのだろうかと。他の目的は見出せぬだろうかと考えあぐねた挙句、こうして昼夜を問わず自らに軍務を課してきたのだ」
とんだお笑い種だと、小さく呟いて口元を歪めた。
「虚しいとお思いですか」
首から肩甲骨にかけてをゆっくり滑らかにさすられ、マッサージの一環であると理解してはいても、誰かに抱擁されているような錯覚に陥った。
「ああ、そうなのだろうな。復讐心に燃えていた時には気にも留めなかったが、目的を失って初めて、倒すべきものも愛すべきものもない我が身が、ひどく小さく遠く、色のない存在に思えた」
垂れ下がっていた右手が、無意識に何かを探して蠢いた。だがその手元に触れるものは見出せず、寄る辺なく元の位置へと下ろされた。
寄る辺なく。何かにすがりたいと、この体は動いたのだろうか。
「いっそご結婚されて、愛すべき存在をお作りになればよろしいのではないですか」
右手の動きを見咎められたのか、フェルナーの手が肩から両の二の腕へと、そっと下りてきた。オーベルシュタインはかぶりを振った。
「子を成せぬ私が、か」
上官の平淡な声に、今度はフェルナーがかぶりを振る番だった。
「劣悪な遺伝子など存在しません。閣下のその目は遺伝しませんし、仮にしたとしても、もはや蔑まれることのない世の中を
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