ほぐす
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、関節を痛めないように」
「うっ……くっ……」
オーベルシュタインは無意識にぎゅっと目を閉じた。
「閣下、力を抜いて下さい。目を開けて、ゆっくりと息を吐きながらもう一度」
ふぅっと息を吐く音と微かな衣擦れの音だけが、数秒のあいだ執務室の中に響いた。時間をかけて逆の腕も同じように行うと、フェルナーは上官の腕を解放した。
「どちらの肩がより凝っていらっしゃるか、ご自分でお分かりになるでしょう」
フェルナーの問いに、オーベルシュタインは静かに肯いた。
「ああ。左が、思いのほか動かぬな」
「小官にもそう見えました。こまめに少しずつ動かすのが一番ですが……少しお揉みしますよ」
言うや否や背後に回り込んだ部下に、振り向く間さえ与えられず、オーベルシュタインは両肩に手の温度を感じた。
「もう結構だ、フェルナー准将。卿の仕事がはかどるまい」
緩く撫でほぐすようなマッサージに心地よさを覚えながらも、オーベルシュタインは部下の手を制止した。しかしながら制止された部下の方は、微塵も気にせずに上官への奉仕作業を続ける。
「小官の仕事は、閣下の仕事の進み具合に左右されます。ですから、閣下の肩凝りが改善され、閣下ご自身の仕事が捗ることが肝要なのですよ。……まあまあ、とやかく言う前に、もう少し力を抜いて下さい。痛くなんてしませんから」
「そういう問題では……」
ぶつぶつと何事か呟きながら、オーベルシュタインは深く息を吐いて全身の力を抜いた。実害はないこと、こういったフェルナーの行動に何を言っても無駄なこと、そして驚くほど彼自身の気分が良くなってきていること。この状況に甘んじる理由をいくつか心のうちに挙げて、オーベルシュタインは軽く瞼を閉じた。
肩にかかるフェルナーの大きな手の感触とぬくもりだけが、彼の五感を刺激した。やはり、疲れていたのだろうか。弛緩しきった上肢が、だらりと椅子の脇を所在なさげに彷徨った。
「首にもかなり凝りがありますね」
上官を気遣ってか抑えられた声が、まるで春先のそよ風のように心地よく耳に響いた。
「そうか」
目を閉じたまま応じると、部下の指が首筋にのびて、硬直していた首の付け根がたちまち温かくなる。
「閣下のこの肩に、どれだけ多くの責任が乗っていて、どれだけの人間が助けられているのでしょうね」
この不遜な部下が、どのような表情でそう言ったのだろうか。想像すると可笑しくなり、オーベルシュタインは微かに口角を上げた。
「ふっ……異なことを言うな。誰かを陥れこそすれ、救うようなことはない。私に対する、それが一般的な評価であろう」
無機的な人工眼球が見えないせいだからなのか、日頃の冷たさではなく、物悲しい自嘲のようにフェルナーには聞こえた。
「一般的な評価など愚にもつかない中傷ですよ。閣下の取られた策によって、皇帝
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