9部分:第二幕その二
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第二幕その二
「あの騎士のことをね」
「どういうことだ?」
「白鳥に連れられてこのブラバントに来た」
「ああ」
「そこにあるのよ」
「神が起こし給うた奇蹟ではないとでもいうのか?」
「奇蹟」
皮肉めいた笑みでの言葉だった。
「何のことだか。とりあえず私に任せておくことね」
「そうか。とにかく考えがあるんだな」
「何故あの騎士は名乗らないのか」
「そういえば」
これはテルラムントも不思議に思うことであった。
「そうだな。何故だ」
「そこよ。公女にきつく口止めまでして」
「考えてみれば奇妙なことだな」
「それを公女に囁くのよ」
思わせぶりな微笑みでの言葉であった。
「その耳元でね。そうすれば」
「騎士も窮地に陥るな」
「そういうことよ。わかってくれたわね」
「うむ」
テルラムントもここでようやくはっきりとした顔で頷くことができた。彼の顔に生気が戻り本来の勇ましい顔になってきていたのだった。
「それでではな」
「あの騎士は只者ではないわ」
「確かに」
これはテルラムントもはっきりと感じていた。
「それはな。その通りだ」
「恐らく魔術に長けているわね」
「魔術にか」
「そうよ。つまり」
「神に誓った勝負において魔術を使った」
「しかもそれが異教の術だったならば」
オルトルートはここで密かに夫にも囁いていた。しかし彼はそれには気付いていなかった。
「どうなるかしら」
「異教徒!?」
「ええ、そうよ」
驚く夫に対して不吉な笑みを浮かべて囁くのだった。
「異教徒なら」
「考えてみれば有り得る」
テルラムントは真面目なキリスト教徒として考えた。深刻な顔で腕を組んでいる。だがオルトルートは不吉な笑みで笑い続けているだけである。
「奇蹟を語りな」8
「私の魔術は神の魔術」
あえてキリストの、とは言っていない。テルラムントは気付いてはいないが。
「そうよね」
「うむ、確かに」
「貴方が敗れたのは悪魔としたら」
「わしは神に裁かれたのではない」
「そうよ。貴方が間違っていたのではないわ」
また夫に対して囁いてきた。彼にも気付かせないうちに。
「あの男は」
「ではわしは恥を注げる」
「そうよ」
また囁く。
「わかった。それではだ」
「その通りよ。あっ」
ここで婦人館のバルコニーが開いた。そこから姿を現わしたのはエルザであった。
「公女が」
「出て来たわね」
「うむ」
オルトルートの言葉に対して頷くテルラムントだった。
「そうだな」
「私の嘆きと悲しみを消してくれたそよ風よ」
エルザはバルコニーにおいて言った。
「今私の喜びを貴方に対して告げましょう」
「喜んでいるな」
「確かに」
「貴方のおかげであの人は来ました。
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