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渦巻く滄海 紅き空 【上】
五十七 閉幕
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火影を殺して名を挙げたい奴らだって幾らでもいる。どちらにしても同じ事さ」

墓標を前に、肩を並べたカカシとアスマは同時に天を仰ぐ。三代目火影が生きているという真実を知る彼らは、ようやく小降りになってきた空を物憂げに見遣った。
途切れた雨雲から射し込む光が、二人の複雑な顔をほんのりと照らす。鐘が一際大きく里中で鳴り響いた。



直に雨が上がる。















雲間から垣間見える太陽。
寸前まで降っていた雨が嘘のように晴れ渡った空。水溜りに映り込んだその青は乱反射して、次々に円を描いている。

空を閉じ込めた水溜り。それをナルトはじっと見下ろしていた。最後に聞いた三代目火影の言葉が今でも耳に残っている。
先ほどの出来事を思い出し、彼は静かに双眸を閉じた。



「わしを殺せ」
無言で佇むナルトにヒルゼンは猶も言い募った。

「お主はまだ若い。たかが老い耄れ一人…簡単じゃろう?」
「…冗談はよしてくれ」
苦々しげに答えるナルトの前でヒルゼンは「冗談ではない」とゆっくり頭を振る。
「わしが死ねば、ナルは兄の記憶を取り戻す。もう一度、兄妹仲良く幸せに暮らせる日が来るのじゃ」


うずまきナルトはある日、忽然と里から姿を消した。どれだけ捜索しても暗部を派遣しても決して見つかる事は無かった。誰もが皆、彼の死を疑わなかった。

実の妹―――波風ナルを除いて。

ヒルゼンが一生かけても償い切れない罪。それはナルトの存在を消してしまった事だった。
彼はずっと後悔していた。確かにナルトを、兄を忘れてからナルは元気を取り戻した。けれどヒルゼンだけが抱える秘密はとてもとても重かった。

覚悟はしていた。死ぬまで背負い続けると。
それでも、彼はもしかしたら生きているかもしれないナルトへの申し訳なさでいつも胸が張り裂けそうだった。


「どうせこの足ではもう火影としても忍びとしてもやっていけん」
「…………」
「恨んだりはせぬよ。最期にナルト…。お主と会えたのだから…」

死んでいたと思っていた子どもが生きていた。それだけでヒルゼンは嬉しかった。たとえ彼の存在を知る者が自分しかいなくとも、ヒルゼン自身死んだものだと思っていても。


「ナルト」
名を呼ぶ。
九尾と同一視されていた妹に変化していた兄を。彼女の身代りに里人から虐待を受けていたあの幼子を。
「ナルト」
だからこれは、自分自身への罰なのだ。








手を翳す。
頭上に置かれた小さな手に、ヒルゼンは瞳を閉ざした。死ぬ覚悟を決めている彼の顔を、ナルトはまじまじと眺めた。
老いたその顔には、ヒルゼンの火影としての歴史が幾重にも刻まれている。


ヒルゼンとて、
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