第四十九話 スペンサーの剣その四
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「できるでしょうか」
「体格といいますと」
「収まる防具があるか不安になります」
剣道の防具にだというのだ。
「それが気になりまして」
「防具ですか」
「はい、私に合う防具はあるでしょうか」
「難しいですね」
大石がこうスペンサーに答えた。
「かなり」
「難しいですか」
「大尉は大きいので」
彼が大柄だからだというのだ。
「合う防具となりますと」
「ありませんか」
「今すぐ見つけることは困難です」
これが大石の返答だった。
「おそらく特別注文になります」
「オーダーメイトですね」
「そうです。それになります」
「ではコストも高くなりますね」
「特に剣道の防具はそうなります」
「何故剣道の防具は高くなるのですか?」
「高価なものですと手作りになるからです」
大石は防具のコストが高くなる理由も話した。
「それでなのです」
「手作りですか」
「安い防具なら機械で作られ安いですが」
「防具は違うのですね」
「はい、今も職人の方が作っておられます」
それこそ一つ一つだ。日本の剣道の防具はそうして丁寧に作られているものなのだ。これは昔からである。
「漆が塗られたり」
「漆ですか」
「はい、使われもします」
「漆といいますと」
スペンサーは彼がこれまで、駐在武官として必要だからこそ学んだその知識の中から大石に対して答えた。
「日本の文化の」
「そうです、漆塗りです」
「かなり奇麗でありそして」
「技術でもあります」
「それも防具で使うのですか」
「そうなっています」
「そうですか」
ここまで聞いて唸る様に言う彼だった。
「だからこそ防具は高いのですね」
「その通りです」
「安い防具を買うことは」
「できませんね」
「立場があります」
スペンサーはこのことは真剣な面持ちで答えた。
「私は軍の将校ですから」
「だからですね」
「将校には社会的な地位にあります」
日本ではかなり希薄になっている考えだがそうなのだ。
「それ故に」
「安い防具となりますと」
「身に着けられません」
「ではやはり」
大石はスペンサーを見上げた。決して小柄ではない彼から見てもスペンサーの身体はとてつもなく大きなものだ。
それであらためて彼に言ったのである。
「オーダーメイトです」
「どれ位になるでしょうか」
「大尉位の大きさですと六百ドルでしょうか」
「それ位かかりますか」
「もっとかかるかも知れません」
一ドルを八十五円と考えての言葉だ。
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