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ローエングリン
20部分:第三幕その五

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第三幕その五

「蒼ざめておられる」
「蒼ざめて!?」
「そうだ」
 見れば確かにそうだった。彼の顔は蒼白だった。そして何故か絶望さえしていた。
「何故だ、あれは」
「わからん」
「だが何かあるな」
「うむ、それはな」
「間違いない」
 これは彼等も感じ頷き合う。
「だとすれば何だ」
「何があった」
「あの方に」
 彼等の中にも不安がよぎっていく。
「それを確かめる為にも」
「今は聞こう」
「そうだな」
「そうするべきだ」
 それが賢明であると。彼等は判断した。そうして王の前まで来てまずは礼儀正しく見事な動作で片膝をついた彼を見るのだった。彼はゆっくりと立ち上がり王の言葉を受けた。
「では騎士殿」
「はい」
「今から参ろう」
 王は彼と共に出征することを望む言葉を出してみせた。
「マジャールの者達がいる東に」
「それですが陛下」
 だがここで騎士は言うのだった。
「それはできなくなりました」
「何っ!?」
「むむっ」
「まさかと思ったが」
 周りの者達はここで騎士の顔の異変を思い出し呟くのだった。
「そういうことなのか」
「だが何故だ」
 それでも疑念はあるのだった。
「何故ここでこの方は」
「その様なことを仰るのだ」
 こう言い合いさらに騎士を見る。騎士はここで一同に告げた。
「まずはです」
「まずは!?」
「騎士殿、何を」
「この男のことです」
 テルラムントの亡骸を差し示しつつ言うのだった。
「昨夜この男は私に襲い掛かり」
「またか」
「またその様なことをしたのか」
 皆それを聞いてまずは呆れた。
「打ち倒しました。このことを告げます」
「自業自得だ」
「全くだ」
 皆忌々しげにテルラムントの亡骸を見つつ言い捨てた。
「そしてです」
「そして!?」
「今度は一体」
「何が」
「我が妻は言ってしまいました」
 騎士は俯いてしまった。エルザの項垂れた顔がさらに蒼くなる。
「私に対して禁じられた問いをしてしまいました」
「禁じられた問い!?」
「ではそれは」
「そうです」
 騎士は辛そうな顔だったがそれでも言うのだった。
「私の名を問うてしまったのです」
「そうですか。やはり」
「それを」
「皆様は御聞きになられていた筈です」
 騎士はまた一同に告げた。
「私の名を問うてはならぬと。私は言いましたね」
「はい、そうです」
「その通りです」
 これは彼等も聞いていた。しかとだ。

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