十三日目 十二月三日(土) 後編
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倒れて行くという事を。そして最後には、アーサー自身も死に至るのだ。かくして、アーサーの時代にはローマ帝国までも統治していたブリテンの黄金時代は終わりを告げた。
アーサー王たる彼女は、がむしゃらに生きた。だがその終着点は友と友が殺し合う、凄惨な結末だった。彼女はその現実を認めたくなかった。なんとしてでもその結末を覆したかった。なぜなら、彼女には耐えられなかったのだ。己を殺して続けて来た道の果てが、このように残酷な結末で有る事に。
「例えばのう。もし、おぬしが、普通の少女として生きる事が出来たとしたらだ。それでもぬしは、王として生きたかえ?」
生前の彼女にそう問いかけたのは、一人の魔女。聖なる神が認めぬ邪法にて、アーサーの血を受け継ぐ子を、己が身に宿した女。父は違うが同じ母から生まれた、血の繋がった姉でもある。
「……その問いは無意味だ。なぜなら、私には選択肢など無かった。私には聖剣を抜く力があり、皆が約束の王を待ち望んでいた。私はそれを受け入れた。それだけだ」
だがアーサーは気付いていなかった。無意識に、その状況を想像する事を拒否していた。答えを出せないであろう自分自身に気付くのを避けたのだ。気付いてしまえば、彼女は強く生きられないから。
全てが、彼女が王として生きる事を肯定していた。彼女は、己が身に課せられた使命を果たす事が正しい道だと信じた。普通の少女として生きる道など、考えもしなかった。だがそれならどうして、アーサーは先の問いに、王として生きると答えられなかったのだろう。
選んだ道が正しいと信じたアーサー。生前の彼女に降りかかる数多の邪悪を目にしても尚、彼女は信じ続けた。血を分けた姉に宿る我が子。全ての傷を癒す、聖剣の鞘の喪失。妻である王妃と最も信頼した友の離反。成長した我が子によって分断された王国。死にゆく仲間。自分にまでも刃を向けた息子。そして、呪われた日に毒蛇によって始まってしまった最終決戦。
(私は、正しい道を選んだ。神に祝福された生き方をした。私は間違ってなどいなかった。……本当に?)
決戦の果てに、実の息子の息の根を止めた、血まみれの手。そして自分の腹部に深々と刺さった、我が子の剣。
ブリテンの民全てが望み、神に約束された道が、こんな形で終わっていい筈が無い。
それゆえにアーサーは冬木の聖杯を望み、サーヴァントになったのだ。しかし第四次聖杯戦争で、彼女の身に降りかかったのは地獄に等しい運命だった。
(ああ、黒い無数の手が私を呼んでいる。……私に、騎士を捨てろと? ……侮るな。私は騎士王アーサー。断じて狂気に飲まれたりはしない。……しない。……私が騎士で無ければ、皆が死ぬ事は無かったのだろうか。私が騎士であったばっかりに、我が友はことごとく命を散らしてしまったのでは、無いのだろうか)
「例えばのう。もし、
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