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剣の丘に花は咲く 
第九章 双月の舞踏会
第六話 揺れる心
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たが、不意に響き渡った声がその男の正体を知らせる。

「はんっ! 何馬鹿なことを言っているのっ! 彼があの連合軍に迫る七万の軍勢をたった一人で打ち破った男『赤き英雄』シロウよっ!」

 明らかに男の野太い声であったが、女のような話し方をする声が通りに響き渡ると、先程まで謎の隊長の正体について語り合っていた民衆が一斉に静まり返り。一瞬の静寂の後、民衆からどよめきが広がる。
 どよめきが広がる中、士郎は渋くなりそうな顔を必死に押しとどめながら、野太い女言葉を発した人物―――スカロンに視線だけ向けた。何千といる観衆の中でも、スカロンはやはり目立つ。あの濃いとしか言いようのない身体と顔と服装は、視線だけを巡らしただけで直ぐに目的の人物を見つけ出させる。
 予想通りスカロンはこちらに向かって力一杯腕を振っている。その周りには、士郎にも見覚えのある『魅惑の妖精亭』の女の子達が手を振っている姿も見えた。

「まさか、あれはただの噂で……」
「でも、噂通り……」
 
 スカロンの声を聞いた民衆からは、懐疑的な声が上がっている。ガリアが参戦する直前。撤退する連合軍に迫る、魔法によって反乱軍となった一部の連合軍を含めた七万のアルビオン軍を、逆に撤退に追い込んだ存在がいたことは、実は最近のトリステインの市民なら誰でも知っている噂であった。間に合わないはずの撤退が間に合ったのは、七万のアルビオン軍を打ち破ったものがいたからだという噂は、娯楽に飢えた市民にとっては格好の話しの種であり。一時期は真実は他所に、エルフの部隊やら何処ぞの親衛隊がやった等と様々な説が飛び交っていたが、ある時期を境に、一つの噂に収縮し始めた。
 それが『たった一人の赤い剣士によって七万のアルビオン軍は撤退に追い込まれた』と言う噂。
 最初はメイジでも何でもない剣士が七万の軍勢を撤退に追い込めるかと笑われていたが、その戦いに参戦していたという男たちがその噂を肯定した時からその噂が笑われることはなくなった。連合軍の一部が反乱軍になった理由が魔法によるものだということは、政府からの発表で市民は知っていたため、反乱軍にいたと言う男たちを攻める者はほとんどおらず。それよりも、七万の軍勢をたった一人の男が打ち破ったという話が真実なのかということの方が、市民には重要なことであった。
 魔法により反乱した男たちの話によると、意識がハッキリとしていなかったが、赤い男により軍が撤退に追い込まれたことは覚えていると口を揃えて話したおり。たった一人の男により七万の軍が撤退に追い込まれたという噂は、真実味を帯び始めた。
 だが、いくら証人いるとはいえ、七万の軍を一人でという話は俄かには信じられず、今目の前にその巷で『赤き英雄』と呼ばれ始めた男がいるにも関わらず、いまいち疑念が消えない民衆であったが、ある人物
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