第九章 双月の舞踏会
第六話 揺れる心
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ザリーニ。
「……経験則ですが、人は政治に―――人の欲望に深く触れると、大きく二つに分かれます」
「二つ、ですか?」
かざした手の影に隠れているためマザリーニがどんな表情を浮かべているのか、アンリエッタには見えなかった。淡々とした口調からも、どんな感情が潜んでいるのか分からない。
「流され欲望に心が染まる者と、耐え忍び心が削られる者とに、です」
「…………」
シンっ、と馬車の中が静まり返る。
聞こえるのは、微かに馬車が揺れる音と、窓の隙間から漏れ聞こえる外の歓声だけ。
マザリーニの言葉を耳に、アンリエッタは視線を足元に落とすと最近のことを思い返す。
戦争中以上に、最近のアンリエッタは多忙を極めていた。戦争以前は国内だけでよかったものが、戦争後は各国との交渉や会談に出席するようになり、まともに休む暇もない。今日もまた、国境の街で開かれたゲルマニア皇帝との昼食会に出席していた。
アルビオンとの戦争に勝利し、レコンキスタの、貴族派の勢いは弱まったが、未だ油断が出来る筈もなく。国外だけでなく国内の会議やパーティーであっても、隙を見せられない緊張感が続く日々が続いていた。
復讐に飲まれていた頃は、何も考えず何も感じずただ前に進んでいられたが、目が覚めた今は、女王としての責任を力に何とか前に進んでいるが、最近それも限界に近い。
笑顔で手を差し出しながら、隙を見せれば容赦なく牙を剥く貴族たちを相手にすることは、まだ若いアンリエッタの身体や心に多大な負担を掛け。最近はそのせいか、唐突に目眩や立ち眩み、酷い時は吐き気さえもようしてしまっていた。
今もまた、視界がぐるぐると回りだし、視線の先、足元に倒れそうになったが、
「……ですから、支えを見つけてください」
マザリーニの声に、ギリギリの所で気を取り戻した。
「支え?」
ゆっくりと顔を上げたアンリエッタが、隣で目を伏せたマザリーニに顔を向ける。
「信じ、頼ることの出来る存在です。わたしにとっては信仰がそれです」
「……信じ、頼ることの出来る存在……」
マザリーニの言葉を口の中で繰り返す。
『信じ、頼ることの出来る存在』そう言われて、まずアンリエッタの脳裏に浮かんだのは、白い髪の、浅黒い肌の男の姿。
不思議なことに、気付けば先程まで感じていた目眩が、その男の姿を思い出しただけで嘘のようになくなり、代わりに胸の奥に何かが熱く灯った気がした。
「……どうやら陛下には既にそのような存在がいるようですな」
「えっ!?」
急に火照りだした頬を冷やそうと、アンリエッタが窓に顔を向けると、隣に座るマザリーニが何処か柔らかい声を上げた。
突然声をかけられことで驚いたアンリエッタが、カーテン越しに窓に額をぶつける。頬
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