16部分:第三幕その一
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第三幕その一
第三幕 騎士の名
寺院の礼拝堂に彼等は集まっていた。そこには騎士と白い礼服に身を包み絹の薄いヴェールを被ったエルザがいる。婚礼であった。
王も貴族達もそこに集まっている。右手から貴族に案内された騎士と左手から貴婦人達に導かれたエルザが舞台にやって来ていたのだ。彼等を先導した小姓達の手にはキャンドルがある。
「真心込めて導かれ」
「勝利の勇気と愛こそは」
導く彼等が歌う。
「真の幸の契りなれ」
「徳高き姫よ、いざ前へ」
「うら若き姫、いざ前へ」
二人が前に出ていた。
「香りも高き愛の殿に」
「灯火に導かれて入る」
「愛の幸を受けられよ」
「勝利の勇気と愛こそは」
「真の愛の契りなり」
こう歌われ二人は礼拝堂の神の前に来た。そして十字架の主の前に出る。そこには聖なる杯もあった。騎士はそれを思い深げに見ていた。
二人がそこに辿り着くと八人の乙女達が二人の周りを巡り。厳かに歌うのだった。
「神が祝福される貴方達を」
「私達も喜びで迎えましょう」
清らかな声での歌であった。
「愛の幸に護られて」
「今日この時を忘れないように」
「真心込めて導かれ」
「勝利の勇気と愛こそは」
二人を祝福する歌がまた歌われる。それが終わり二人は婚礼の式を終えて寝室に入った。中央に白い大きなベッドのある簡素な寝室だった。カーテンの白さが柔らかで窓からは夜の帳が見える。二人は今ここに入った。彼等はまだ礼服に身を包んでいる。
「我が妻よ」
「はい」
最初に声をかけたのは騎士であった。エルザがそれに応える。
「今我々ははじめて二人になった」
「はい」
騎士の言葉にまた応えるのだった。
「世間から離れ。心と心の交わす言葉は誰も聞きはしない」
「誰もですね」
「そう、誰もだ」
騎士は穏やかな声でエルザに告げた。
「誰も聞きはしない。今ここにいるのは私達二人だけだから」
「私達だけ」
「だから言おう」
騎士はまた言った。
「エルザ」
「はい」
「我が愛する妻よ。貴女は幸福なのだろうか」
「幸福という言葉では」
エルザはこう騎士に対して言葉を返した。
「私の胸は燃え上がるものを抑えられません」
「それ程までなのですね」
「そうなのです」
こくりと頷いて彼に述べた。
「今は。厳かに」
「貴女が自ら幸せだと言われるのなら」
騎士も彼女の言葉を受けて言葉に笑みを入れる。
「私もまた」
「貴方もなのですね」
「そうだ」
またエルザに対して述べた。
「私もまた」
「貴方もまた」
「神々しい気持ちになる」
これが彼の今の心であった。
「貴女と共に」
「私と共にですか」
「私が貴女の騎士に選ばれた時」
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