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ローエングリン
10部分:第二幕その三
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第二幕その三

「それではな」
「ええ」
 テルラムントはオルトルートと言葉を交えさせてから場を後にした。オルトルートはそれを見届けるとすぐにバルコニーのエルザの方に顔を上げて声をかけた。
「公女様」
「どなたですか?」
「私です」
 寺院の階段のところから声をかけ続ける。
「私ですが」
「その声は」
「はい、そうです」
 謙虚を装って言葉を返す。
「今ここに」
「オルトルートさん、どうしてここに」
「私も去らなくてはならなくなりました」
 打ちひしがれた声を出してみせた。
「昼の件で」
「そうでしたね。それは」
「今は。後悔しています」
 エルザが自分の場所がわかっているのをわかって項垂れてみせた。
「夫もまた」
「伯爵もですか」
「はい。貴女はあの方と幸せな生活を手に入れられ」
 また言うオルトルートだった。
「そして私は」
「ここから姿を消さなければならない」
 また言うのだった。
「永遠に」
「それは。私は」
「貴女は?」
「私だけが幸福になってはなりません」
 ここでこう言うエルザだった。
「それは。やはり」
「それでは一体」
「御期待下さい」
 今度はこう告げたのだった。
「私が貴女をお助けしましょう」
「私をですか」
「そうです」
 また答えるエルザだった。
「どうか私にお任せ下さい。暫くお待ちを」
 ここで一旦バルコニーから姿を消した。一人になったオルトルートは呟きだした。
「汚された神々よ。今こそ私に御力を。貴方達に加えられた恥辱に報いを。そして貴方達に仕える私に御力を。背教徒達の破廉恥な妄想に罪を」
 そしてこの名を口に出した。
「ヴォータン」
 この名前を出した。
「貴方に呼び掛けましょう。フリッグよ」
 次にこの名前を出した。
「貴方にも御言葉を。どうか私に御力を」
「オルトルートさん」
 婦人館の戸口から声がしてきた。
「何処に?」
「こちらです」
 またしおらしさの仮面を被って言った。
「ここに。います」
「何という哀しげな御顔」
 キャンドルを右手に掲げ戸口から出て来たエルザはオルトルートの顔を見て言った。
「あのお美しい貴女が。私は決めました」
「何をでしょうか」
「貴女をお救いします」
 こう言うのだった。
「何があろうとも」
「まことですか?」
「はい」
 確かな声で頷きオルトルートに歩み寄った。
「例え何があろうとも。神に誓いましょう」
「神に」
「そして伯爵も」
 テルラムントもまた救うというのだった。
「何があろうとも」
「有り難き御言葉」
「明日の朝正装して来て下さい」
「貴女の御前にですね」
「そうです。そして私と共に教会へ」
 彼女もまたキリストを信じていた。
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