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蒼き夢の果てに
第5章 契約
第71話 名前
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少女姿の氷の彫刻が存在していた。

 そう。彼女ら精霊と、この世界の魔法使いたちとの歪な関係。
 確かに、精霊と契約を結ぶ事もなく、また、世界にあまねく存在して居るとは言え、霊的な感度がかなり高い人間でなければ精霊たちの力を借りる事は出来ない、と言う俺の世界の理をあっさりと超えたトコロに存在するこの世界の魔法は、科学技術の発展していない世界には必要な物なのかも知れません。
 しかし、それでも、六千年もの長きに渡って殆んど変わらない文明を維持し続けている、と言うのもかなり不審な状態。

 それに、俺たちの世界で六千年前と言えば、これは神話の世界。正確な記述も残されていなければ、その当時の出来事を残して居ると思われる神話と言う物も、時代と共に内容が変遷して来ています。
 そもそも俺は、そのブリミル教と言う一神教について、詳しい内容をほとんど知らないのですが……。
 例えば、日本に神武天皇が本当に実在して居たのかどうかさえ、実は定かではないのですから。たかが、二千六百年から七百年ほど前の事が判らないと言うのに、六千年前の状態の正確な伝承が残って居ると言う事自体……。

 俺が、この世界の成り立ちと、其処に秘められた謎のような物に到達し掛けた正にその瞬間。

 窓枠に腰を下ろした紫の少女が、その視線を送って居た書籍を静かに閉ざした。
 そして、俺を真っ直ぐに見つめる。

 彼女のその反応に合わせるように、このレベルの宿屋に相応しい扉をノックされたのだった。



 轟々と唸るように吹き付ける風に身体を立て、同時に生来の能力を発動させ、風と彼女たちの間に不可視の壁を瞬間に作り上げた。
 そう。時と場合に因っては、時速九十キロ以上の速度と威力で吹き付ける風に、彼女たちを直接晒す訳には行きませんから。

 季節風に支配された異世界のマルセイユの街は正に嵐の様相を呈し、流れる雲の速度は速く、海は荒い波音と整備された船着き場を洗う白波に、今宵は船を出す漁師すら存在していないであろうと言う状況。
 埠頭と言う場所は、こんな嵐の夜に訪れる場所ではないと思うのですが……。

 俺はそう考えながら、少し厳しい表情を浮かべた妖精女王の横顔を見つめる。
 彼女は俺の考えを知ってか、それとも知らずか。
 この場所に辿り着いてから闇の彼方に沈んだ海の向こう側を見つめた切り、何も話そうとはしない。

 そうして、

「この埠頭から西に三リーグほどの距離に有る島に渡りたいのですが」

 この場所にやって来てから初めて、妖精女王はそう言った。相変わらず厳しい瞳で遙か沖を見つめながら。

 三リーグ。大体、三キロメートルと言うぐらいの距離か。
 確か、水平線までの距離が四,五キロメートルと言うトコロだから、晴れた昼間ならば、有視
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