ザイルくんの厳しい現実
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いだろう。
顔を見たら、口汚く罵ってしまうかもしれない。
あのとき感じたあのひとの寂しさを、オレが癒したいと、たしかにそう思ったのに。
あのひとをあんなに悲しく笑わせたヤツらとオレも結局は、同じなのか?
……だけど、やっぱり!
知ってしまった以上、同じように想うことは、もう……!
そんなオレの葛藤すらやはり見透かして、ドーラ様が悲しそうに言う。
「あのひとは、もう、いません。このあと、どうしようかなんて。かんがえなくても、いいんです。もう、なにも……できないんですから」
オレごときのためにドーラ様が、そんなお顔をなさる必要はないのに。
だが、そうか。
オレがいまさら考えたところで、そのまま関係を続けることはおろか、うらみごとを言うことも。
「……もう……」
なにも、できないのか。
「あのひとは、おんなとして、ザイルくんを、すきになった。ザイルくんは、おんなの、あのひとを、すきになった。そして、もう、おわったんです。……それで、いいじゃ、ないですか?」
たしかに、ドーラ様の仰る通りだ。
あのときのあのひとはたしかに美しく、悲しげだった。
もう、なにもできないのなら、そのときのあのひとの姿まで。
オレのくだらない葛藤で、汚すことはない。
まるで、冬の間だけ美しく降り積もって、春になれば消えていく、雪のように。
美しい夢だったと、そう思えばいいんだ。
「ザイルくんは、あのひとが。すき、だったんでしょう?」
そうだ。
彼女の真実まで全て受け入れるなんて、そんな大層な男ではオレはないけれど。
あのときのあのひとのことは、たしかに愛しいと思った。
そんな簡単なことにも、言われなければ気づかないなんて。
オレは本当に、なんて馬鹿なんだろう。
「……はい。ドーラ様。ありがとう、ございます。オレなんかの、ために……!」
こんな馬鹿でくだらない、オレなんかを心配して。
大切なフルートをすぐにも届けなければいけない、貴重な時間を使って。
馬鹿なオレが理解できるまで、時間をかけて、わからせてくれるなんて。
感激のあまり、大昔にじいちゃんに殴られたのを最後に流したことのなかった涙が滲んでくるが、ここで泣いてしまってはあまりにも情けない。
必死にまばたきをして誤魔化すオレに、ドーラ様が優しく笑いかけてくださる。
「いいんです。さあ、もう、いってください。おじいさんが、しんぱい、してますよ?」
オレが泣きそうなのに気づいただけでなく、そのことは言わないで、この場を離れやすいようにしてくださるとは……!
いま、わかった。
さんざんオレを馬鹿にしたような言動も行動も、全てはドーラ様の広いお心、
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