ザイルくんの美しい思い出
[1/3]
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
物心付いた時には、じいちゃんと一緒だった。
ときどき物を届けにくるヤツはいても、それだけで。
じいちゃんとふたりで、他に誰かがいたなんて、考えもせずに育った。
それが変わったのは、少し大きくなって、ひとりでこっそり洞窟の住み処を抜け出して。
洞窟からずっと東の――今思えばたいしたことない距離だが、そのときはすごく遠くに思えた――妖精の村に、行ったとき。
最初に会ったいけ好かない妖精のヤツは、見慣れない子供のオレに、うさんくさい顔を隠しもしなかったけど。
村のドワーフの大人はまぎれ込んできたオレのことも、ちゃんと扱ってくれた。
「もしかして、ザイルくんかい?西の洞窟の、じいさんとこの。大きくなったな!」
「じいちゃんとオレを、しってるの?」
オレは、知らなかったのに。
じいちゃんも、なにも言ってなかったのに。
何度も抜け出して、色々探検してまわるうちにやっと、ここを見つけたのに。
「ああ。家出した娘さんが赤ん坊を連れて帰ってきて、すぐに亡くなったと聞いたときは、あんな場所でじいさんひとりで、育てられるもんかと思ったが。そのあともたまに届け物に行くヤツに、話は聞いていたけれども。いやいや、元気なようで良かったよ!」
じいちゃんの、娘。
そのときはよくわからなかったが、オレの母親にあたる人だと、あとで知った。
オレは洞窟に帰ると、すぐにじいちゃんを問いつめた。
村のことを、なんで教えてくれなかったのか。
あんないいところがあるのに、なんでオレたちは、こんなところに住んでいるのか。
オレたちのほかにも、ここに誰かがいたのか。
ため息をつきながらじいちゃんが言ったのは、昔、妖精の村に住んでいたこと。
元々は妖精だけが住んでいたその村に、ドワーフも置いてもらえるようになって、その恩を返そうと研究に励んでいたこと。
その甲斐あって新しい技術を見つけたが、そのせいで逆に、村を追われてしまったこと。
村の便利な暮らしに慣れた娘は、早々にこの洞窟での生活に音を上げ、出ていってしまったこと。
共に行こうと誘われたが、今さら外の世界でやり直す気も無く、ここに骨を埋めるつもりだったこと。
「村長様は、そうなさるしか無かったんじゃ。そうせねば、他の妖精たちの不満を、抑えることが出来なかったからの。娘を巻き込んだのはすまなんだが、わしひとりが出ていけば済むなら、わしはそれで良かったんじゃ」
じいちゃんは、そうも言ったけど。
オレは、納得できなかった。
村のために頑張ってたじいちゃんが、なんで追い出されないといけない?
なんで、オレはこんなところにいる?
本当なら母親という人と一緒で、じいちゃんも一緒に。村で、幸せに暮らし
[8]前話 前書き [1]次 最後 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ