第百三十四話 信行出陣その十
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「ですから」
「そうじゃな、しかし伊賀は」
「伊賀ですか」
「徳川家の半蔵殿がおられるが」
「お呼びでしょうか」
その半蔵が出て来た、影の様にすっと二人の横に来た。黒い忍装束で二人の横をその脚で駆けている。
「丁度お話したいことがあり参りましたが」
「おお、丁度よい」
「して伊賀が何と」
「伊賀は半蔵殿だけではござらんな」
柴田が彼に問うのはこのことだった。
「左様でありますな」
「はい」
その通りだとだ、半蔵も答える。
「それがしの服部家の他にも上忍の家があります」
「確か百地家でしたな」
滝川がこの家の名を出す。
「そうでしたな」
「そうです、伊賀の上忍はこの二家ですが」
ここでこう言う半蔵だった、言葉は今一つ歯切れがよくない。半蔵にしては珍しいことにである。
「ただ、百地家は」
「どういった家でありましょうか」
柴田がそのことを問う。
「一体」
「同じ伊賀にいたのですがよくわかりませぬ」
「何と、半蔵殿でもでござるか」
「はい、服部家と百地家はそれぞれの手の者も違いますし」
「別れているのですか」
「完全に」
同じ伊賀の忍であっても全くだというのだ。
「その術も違うのです」
「そうでありましたか」
「我等は身体を使う術ですがあの家のものはどうやら妖術の類も多いとか」
「妖術でありますか」
「左道もしておるとか」
半蔵は剣呑な顔になり百地家のことを語っていく。
「外に話が出ず我等も全く知らぬのです」
「そうした家でありますか」
柴田もその話を聞いて唸る、伊賀と程近い甲賀の滝川も今はじめて聞いたという顔だ。
柴田はここまで聞いてこう言うのだった。
「では百地家のことは何も」
「三つの家がその下にあるとか」
「三つでありますか」
「はい、石川家に音羽家、それに楯岡家です」
この三つの家があるというのだ。
「そおうした家があることはわかっていますが」
「それでもでありますか」
「他は何も」
半蔵も首を傾げさせている。
「わかっておりませぬ」
「左様ですか」
「残念なことに」
「ではそちらについては」
「それがしも何も手出しが出来ませぬ」
半蔵も伊賀の上忍の一人だがそれでもだというのだ。
「百地の領内には」
「どうしてもでござるか」
「そうです」
「そこが甲賀とは違いますな」
今では実質的に甲賀の棟梁となっている滝川から見てもだった、彼も伊賀のそうしたことについては知らなかったのだ。
「実に」
「はい、事実上服部と百地に別れています」
「それで百地の下にその三つの家がありますか」
石川、楯岡、音羽の三つの家がだというのだ。
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