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とあるβテスター、奮闘する
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「か、かわいい……?」
「いっそ、髪型変えてみたらどうですか?ちょっと長めして、赤とかピンクみたいな目立つ色にしてみるとか!」
「そ、それはちょっと、勘弁してほしいかな……」
「えー?絶対似合うと思うのにー!」
他愛のないことを話しながら、NPC店員が運んできた紅茶を一口啜る。
こうして彼女の相手をしながら紅茶を飲むことは、ここ一ヶ月の間でもはや恒例となっていた。

現実世界のアールグレイに似た、それでいてどこか違う不思議な芳香の液体を、ゆっくりと嚥下していく。
口の中にほどよい甘さが広がり、思わず頬が緩んでしまう。
ルシェ曰く『隠れた名店』というだけあって、ここの紅茶は絶品だ。
彼女の話相手になるという名目で何度も訪れているうちに、僕はこの喫茶店がすっかり気に入ってしまっていた。

───今度、シェイリも連れてこようかなあ。

紅茶をもう一口啜りながら、ぼんやりと考える。
《投刃》という通り名がある僕とは違い、彼女自身はそこまで悪目立ちしているというわけでもなかった。
強いて言うなら、攻略組の一部から《人型ネームドモンスター》《歩くデュラハン製造機》《首狩りバーサーカー》などと密かに呼ばれているくらいだろうか。
人のパートナーに対して、なんとも失礼なことを言う……と、憤りたいところではあるけれど、日頃から彼女の戦い方を間近で見ている僕としては、頭ごなしに否定することができないというのが悲しい現実だ。

……まあ、それはさておき。
そんなシェイリではあるけれど、彼女は僕のように《ユニオン》の人間から厳重にマークされているわけではない。
仮にキバオウたちに見つかったとしても、有無を言わさず連行されるようなことにはならないだろう。
僕さえ見つからなければ、彼女と一緒にここを訪れることもできるはずだ。

「というわけで───って、ユノさん?」
「……あっ、ごめん。ちょっと別のこと考えてた」
「またですかー?ユノさん、そういうところありますよね。ま、まあ、あたしは別に嫌いじゃないですけど!」
「?」
そう言って、ルシェは何故か頬を赤くしながら、何かを誤魔化すように紅茶を一気飲みし始めた。
また悪い癖が出てしまって、僕としては怒られるところだと思ったんだけれど……まあ、彼女は別段怒った様子ではなさそうだし、いいということにしておこうかな?

「んぐっ───ぷはぁ。……そろそろ、お開きの時間ですかね?」
自分の紅茶を一気に飲み干し、彼女はちらりと時計に目をやった。
僕も背後を振り返り、喫茶店に設置されている壁時計を見ると、時計の針は午後2時を回ったところだった。
この店に入ってから、時間にしておよそ一時間ほど。
一週間に一度、短い時間の間だけ、こうして話相手になる───それが、ルシェが僕に望んできた
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