第九章 双月の舞踏会
第五話 変わる日常
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立ち上がったはいいが、手に持った杖を向けることも出来ずプルプルと膝を震わせたまま動かないギーシュたちに、士郎は喉の奥で小さく笑うと、肩に乗せた木刀を横に振り切る。
「そうか、ならもうひと踏ん張り……やるとするか」
日は既に完全に昇りきり。
夜の面影はすっかり消え失せている。
青々と広がる草原は風にそよぎ爽やかな香りを漂わせる中、士郎は目の前に転がる四つの塊に声をかけるが、
「今日はここまでにするか」
返事が戻ってくることはなかった。
「さてと……どうするかな」
足元に転がる、先程から虫が身体の上を這っているにもかかわらずピクリとも動かないギーシュたちを見下ろす士郎は、やりすぎたかな? と首を捻っていると、
「シロウさ〜ん」
手を振りながら駆け寄ってくる人影があった。
「っふぅ、はぁ、ふぅ……はぁ〜」
「だ、大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です」
士郎の前で立ち止まった女性は、膝に手をつくと必死に息を整えようとする。士郎が心配気に顔を寄せると、女性は小さく首を横に振り、よいしょっ、と掛け声と同時に背を伸ばす。
「最近はここで早朝訓練をしていると聞いたんですが……どうやらもう終わってしまったみたいですね」
チラッと草原の上に転がるピクリとも動かない四つの塊を見下ろした女性は、士郎を見上げるとむぅっと口をへの字に曲げてみせた。
「授業にならないから、朝は余り厳しくしないでくださいって言った筈なんですが」
「あ〜……すまない。だが、そうは言ってもだな」
怒りを示す相手に対し、士郎がぽりぽりと頭をかきながら困った様子を見せると、口をへの字に曲げていた女性が不意に口元を柔らかく綻ばせた。
「ふふ……シロウさんの言いたいことはちゃんと分かっています。ただ、歩いて帰れるぐらいの体力ぐらいは残させておいてくださいね」
「うっ、すまない」
人差し指をピンッと立て、口元に笑みをたたえながら女性がそう言うと、士郎はガクリと落ちるように頷いて見せた。
下げた頭を上げ、士郎の目が女性の柔らかな曲線を描く細められた目と合うと、どちらともなく口から小さな笑い声が漏れ出す。
互いに小さく顔を逸らした姿で、二人が小さな笑い声を上げていると、
「あれ? もしかして今日の訓練終わった?」
木の皮で編まれた籠を肩に担ぐようにして歩いてくるメイドから声をかけられた。
「ん? ああ。さっき終わったばかりだが、どうかしたか?」
「ん〜、特に用があったわけじゃないわよ。今日は朝の仕事がないっていうのにちょっと早く起きてね。二度寝するのもなんだし、暇つぶしに噂に聞く地獄の訓練っていうやつを見に来たんだけど……どうやら
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