第九章 双月の舞踏会
第五話 変わる日常
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空の上に、まばらに星が灯る―――夜と朝の境目。
朝靄に薄紫色の輝きが広がる草原を揺らす風は、曇る薄紫色に染まる霧を揺らすだけで、濃密なそれを散らすことは出来ない。
風に吹き消されることのない、どろりとした濃厚な霧は、時折草原に響き渡るくぐもった音と共に、まるで鼓動するように波立つ。
何時しか空は黒から青へと変わっていき。
山合いから差し込む光が、霧が煙る草原をゆっくりと照らし出し。
白い朝霧の中を駆ける影を形づける。
「遅いッ! それに連携も甘いっ! もっと周りを見ろッ!」
「っく、あ、っくっそおおおぉぉぉぉ!」
吹き寄せる風でも薄れさせることが出来ない濃密な霧は、山脈から溢れる朝日によりその姿を薄め。
霧の奥に隠されたそれが露わになる。
「ギーシュッ!! もっと周りを見ろと言っているだろうがっ! 欲張るなっ! ゴーレムは盾に徹しろっ! マリコルヌ! いくら撃ってもお前の魔法では直接狙っても効かんっ! お前は皆の援護に徹しろっ! 風にこだわるなっ! 砂を巻き上げ目潰しをしろ! 頭を使えっ! レイナールっ! ギムリッ! 近接戦はまだ早いッ! お前たち程度の腕では意味がないっ! ゴーレムを盾に動き続けろ魔法を放ち続けろっ!」
「ぎ、ぐほっあ、お、う、がは」
「ぐっひ、ふ、へぃ、ぇぅう、ほ、ふぉおい」
「ぐ、つ、く」
「がはっ!」
朝日に照らされ溶けるように消えていく霧の中から、白い糸を引きながら四つの塊が飛び出していく。
それを追うように、右手に木刀を握る士郎がゆっくりと霧を身体に纏わせながら姿を現す。
「ギーシュ、マリコルヌ、レイナール、ギムリ……終わりか?」
ブンッ! と身体にまとわりつく白い霧を振り払うように、士郎が右手に握る木刀を振るう。すると、まるで強風が吹いたかのように周囲に漂っていた霧が一気に一掃された。
霧が晴れ。
朝日に照らされた草原が、柔らかな緑の輝きを放つ。
緑の中に立つ士郎は、振り切った右手に握る木刀を肩に乗せ、視線の先に転がるギーシュたちに肩を竦めてみせる。
「ぐ、あ、く」
「ひっ、ぃ、ひぃ、びゅひぃ」
「も、もう、い、いっぱい、いっぱ……」
「か、からはが、あ、く」
ガクガクと身体を震わせたまま、ギーシュたちは地面から動かない。
木刀で肩をとんとんと叩いた士郎は、にやりと口の端を曲げる。
「この様子では、正式な団員になるのは夢のまた夢だな」
ポツリと士郎が呟くと、それがスイッチだったように、ギーシュたちはガクガクと震える身体をゆっくり立ち上がらせる。
「ま、だ、まだ……っ!」
「びゅひゅい〜……びゅひゅい〜、まひゃまや」
「あ、あと……ひとふんば、り、ぐらい、は」
「まだ、やれ……る」
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