第二十八話 夜の一族
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臓が止まるかと思った。
どうしてそのことを、と思ったけど考えてみれば当たり前のこと。
私は、彼女の血を吸ったのだから。
「……お姉ちゃんから、聞いてる?」
「全然、……お風呂を勧めてくれたのはお姉さん」
そう言ってシャンプーを泡立て始める遼ちゃん。
「そう、だよね、自分で言わなきゃだめだよね」
多分、そう思ってお姉ちゃんは遼ちゃんを私に会わせたのだと思う。
これは、私の問題だから。
「私たちはね、吸血鬼の一族なの、昔は普通の人だったらしいけど、いつの頃からか化物になっちゃって、人の血を吸わなきゃ生きていけないの
普段は輸血用のパックで我慢できるはずだったの、だけど今日…………」
本来は異性の血液の方が効果があるけれど、遼ちゃんの血液はそれ以上に美味しかった。
原因はわかっている。けど、言えない。
今日の遼ちゃんがとても魅力的だったから、とは言えない。
吸血鬼だけでも嫌われるには十分なのに、同性愛者とは思われたくなかった。
けど、遼ちゃんの反応は私の予想を外れていた。
「そう」
その一言だけ、怖がりもしなくて、酷いことも言わなくて、ただその一言で終わった。
逆に私の方が驚いて、遼ちゃんに尋ねる。
「そうって、それだけ!? 怖くないの? 私、人間じゃないんだよ?」
過去に、私のことを怖がった人もいた。
その度に記憶を消してきた。
彼らも怖かったハズだけど、私も自分が怖かった。
けど、彼女はそんな私の目を見てこう言った。
「……すずかはすずか、私の大切なお友達、それで十分」
そう言って、頭を洗い始める遼ちゃん。
けど私は動けなかった。
私が吸血鬼でもいい、そう言ってくれたのは遼ちゃんが初めてだった。
お姉ちゃんにとっての恭也さんように、吸血鬼であることを受け止めてくれる人なんているはずないと思っていた。
けど、こんなに近くにいた。
そう思うと自然と涙が溢れる。
「……すずか?」
シャンプーで目が見えないけど、様子がおかしいのがわかったみたいで私の方を向く。
私は涙を拭って、遼ちゃんに告げる。
「遼ちゃん、私と契約して、このことをほかの人に話さないで、ずっと私と一緒にいて!」
言った。
言ってしまった。
遼ちゃんは少し固まった後、頭の泡を全部流す。
そして、私の手を取って言う。
「いいよ、私はずっとすずかの友達、このことは話さないし、私はどこにもいかないよ」
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