第9話「前夜」
[2/9]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
危険なそれ、気の緩み。弛緩。
――どうした、大分苛立っているようだが?
直接頭に響いてきた彼女の声。
「……なんでもない」
「ふふ、そう意地を張るな。今の私は気分が良い、話を聞いてやるぞ?」
「っ!?」
いきなり耳元で聞こえてきた声に、反射的に刀を振るっていた。だが、それは空を斬り、一度闇に溶けたかと思えば、次の瞬間にはタケルの目の前に姿を現した。
「エヴェンジェリンさんか」
だが、タケルの言葉に、エヴェンジェリンは心底不愉快そうに言う。
「『さん』をつけるな、背筋がかゆくなる」
「だが――」
言いかけてエヴェンジェリンが睨んでいることに気付く。
「いや……わかった、エヴェンジェリン」
これでいいか? 尋ねると、エヴェンジェリンは満足気に頷いてみせる。どうも呼称にはこだわりがあるらしい。
タケルがそんなどうでもいいことを思ったとき、またもや背後から一人現れた。だが、今度の人物は先程と違い、堂々と、そして礼儀正しかった。
「……こんばんは、猛先生」
「こんばんは、絡操さん」
挨拶を返して、前方に降り立った二人を見据える。その様子にエヴェンジェリンはクッと笑う。
「……驚かないのだな」
――何のことだ、と考えてすぐにそれに思い当たる。先程彼女が見せた攻撃回避。闇に溶け込んだことを言っているのだろう。
「……以前に――」
言ってもいいだろうか、と少し悩んだ末に言うことを決意。
「――別の真祖を倒したことがあるからな」
「……な、にっ!?」
エヴェンジェリンが驚きの声をあげ、茶々丸もその目を僅かに動揺させた。だが、今の問題とは関係ない。
「お前がもし仲間を殺した俺を殺したいと思うなら構わない。だが後にしてくれ」
今はここのバケモノが先だ、と告げて歩き出す。彼女たちをすり抜けようとして、グッと肩を掴まれた。
タケルが予想していたよりも小さく、そして優しい手だった。
「いや、今度その話を聞かせろ。たかが人間に殺された同胞を肴にすれば上手い酒が飲めそうだ。もちろん、お前にも酒を付き合ってもらうぞ?」
「マスター、猛先生は未成年です」
茶々丸の突っ込みは素晴らしいが、この際なので無視しよう。
「……憎くないのか?」
問いかけるタケルに、エヴェンジェリンは首を傾げて「なぜだ?」と質問を返して言葉を続けた。
「私は知らない同胞よりも気に入っている人間のほうが好きだ」
明快な答えに、タケルは苦笑を浮かべて「助かる」と呟く。だが、すぐにまた怪訝な顔を見せ、尋ねた。
「それよりも、能力は使えないと聞いていたが?」
この言葉に、エヴェンジェリンは待ってました、と
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ