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真鉄のその艦、日の本に
第九話  叛乱への反旗
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ロールに伝わってしまい、自分の位置を教えてしまうが、このハッチには監視システムは設置されてはいまい。そのハッチをくぐり、艦の急所である機関室に潜入できた。いざとなれば、目の前のエンジンを人質に立てこもる事もできる。エンジンを破壊すれば、勿論長岡と遠沢も塵芥と化してしまうのだが。

遠沢は、長岡はやっぱり相当、良い副長なのだろうなと思った。艦長を支える幹部の中でもかなり上位に位置しておきながら、曹士以下の事まで把握している。艦を統べる上と、それに従う下と、両方の事を理解しようと努めていたのだろうと思う。少なくとも、つい数日前にこの艦に乗った、陸軍上がりの自分よりはこの艦を理解している。



「なぁ、さっきも本木が言ってたが、お前、東機関の工作員なんか?」
「はい。正確には、"元”ですけど」
「"元”?じゃあ、陸軍には潜入とかじゃのうて…」
「はい。入り直しました。陸軍戦車隊学校に。19歳の時です。」
「」


長岡は眩暈がするようだった。19歳?19歳で入り直したって事は、それまで東機関の工作員だったと?一体何歳から工作員やってんだ?
そんな子どもにスパイ活動やらして、あの組織の連中は何とも思わないのか?
福岡駐屯地で出会った、上戸の顔が思い出される。あんな清潔な身なり、上品な顔をして、平気で学齢期の子どもに人の目を欺く事を命じ続けているかと思うと、心中穏やかでは居られない。


「…東機関で工作員してたのは、15〜18の間です。普通の女の子ではなかったのは、事実です」


長岡の引いている様子を感じたのか、遠沢も少し気まずそうであった。



「…今発令所に居る連中も、普通ではありません。そもそも、"東機関で仕事をする為に生み出された"者ばかりです。人体複製の技術で作られた試験管児を、成長を促進させ知識は脳内に直接記憶を定着させる事で無理矢理短期間に大人にしたような人間なんです。だから大人のような見た目をしていますが、まだ生まれて10年も経っていないと思います。」



遠沢が静かに語る内容に、長岡はついていけなくなりそうだった。人体複製?人造人間?何かそんな小説を見た事があるような気がするが、そんなものは虚構の世界の設定ではなかったのか?長岡は自分自身の常識が信じられなくなりそうだった。同時に、目の前のこの小柄な若い女を信じたものかどうかにも、若干の躊躇が残る。

いや。長岡は首を振った。
あの首筋に埋め込まれていた針、刺されていると気づく事もできなかったあの針。そして、ありもしない記憶が植え付けられていた、あるはずの記憶が消されていたという事実。これらが現実にあった時点で、この一連の事件に関しては自分の常識の外で起こっている事だと分かる。そして、遠沢は自分を助けようとしてくれたではないか。
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