第八話 人でなし
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長髪、レンズの大きな黒縁眼鏡に、飄々とした笑みをたたえた頬のこけた顔で、ネクタイの無いスーツをだらしなく着崩していて、容姿は恐らくそれなりの美男子なのだろうが、しかしそれを素直に美男子と思わせないような雰囲気を見せている、胡散臭い男。
その後ろに着いてきているのは、黒髪のセミロングの髪に、丸くて幼い顔をした、中背の女だった。こちらはキッチリとスーツを着込んでいるが、そのキッチリと着ているというのも、また初心に見えるような風情である。
しかし、とりあえず言える事は、この緊迫した状況の最前線に似合うような者たちではない。
「誰だ貴様らは!何勝手に指揮所に入ってきてんだ!」
こんな来訪者、前線指揮官が怒鳴る。同じ陸軍の制服を着た連中に襲われたとか、そういう状況も伝えられてるのに、どうしてこんな連中が前線指揮所のテントの中にまで入ってこられるのか。見張りの奴を殴り倒してやりたい。
「あ、俺?俺ね、古本。よろしく〜」
そんな前線指揮官の剣幕もどこ吹く風で、胡散臭い男が名を名乗る。後ろに着いてきた女が苦笑いした。
「古本さん、この人別に固有名詞が聞きたい訳じゃないと思いますよ〜」
この2人には、すぐそこまで、敵兵も混ざった暴徒の群れが接近しているという状況の緊張感がカケラもない。
「そうだ!貴様らの名前なんぞどうでもいい!報道記者か!?野次馬か!?とにかく関係者以外はとっととここから出て行け!」
「うっせぇな〜関係あるからあんたみたいなムサいオッサンしか居ねぇこんな所まで出張ってきてんだろうがよ〜」
面倒臭そうな顔をした古本は場から立ち去る気配も無く、「徳冨ィ、あれ見せてやりな」と言いながら、ポケットから煙草を取り出して火をつける。徳冨と呼ばれた若い女は古本の煙草の匂いに童顔をしかめながら、肩にかけていたバッグの中を漁る。そして一つの書類を取り出して、前線指揮官の前に広げて見せた。
その書類を見ると、前線指揮官の血相が変わった。
「天皇陛下の勅命書…?」
「そゆ事。俺たち陛下の直々の御命令で来てんの。あそこで暴れてるアレ何とかしろってな。」
古本がアゴでしゃくった先には、テントの窓から見える、押し寄せる群衆。盾を携え、バリケードを作っている近衛師団の兵士と衝突が起きている。酷い臭いが立ち込めているのは、陸軍側が催涙弾や、悪臭兵器による威嚇を行っているからで、群衆の方にも被害は出ているだろうが、しかし陸軍の側にも投石や火炎瓶、そしてどこからか飛んでくる銃弾による傷者死者が出ている。
信用できない前線指揮官は、勅命書を徳冨からひったくって何度も見直すが、偽造したものではなかった。目を丸くして、古本と徳冨を見る。
「何者なんだ君達は…」
「それは
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