第八話 人でなし
[7/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
葉に詰まったと捉えた。ほれ見た事か、やっぱりお前が言ってる事はでたらめだ。長岡はそう思うが、そう思いたがっている自分自身には気づいていない。
「……では、思い出せますか?本木砲雷長との思い出を」
「当たり前だ。防大入学当初から仲が良くての…」
「具体的に、です」
今度は長岡が言葉に詰まる。それがどうしてなのか、長岡自身には理解できない。ぼんやりと、本木との思い出の"存在"は知覚できる。しかし、全く具体的な言葉に出てこない。表す事ができない。どうしてだ、どうしてだよ、何で思い出せねぇんだ。そう思って記憶の河を遡り、必死になってその底を漁っても、出てこない。何も具体的な事は思い出せない。冷や汗が止まらない。動いても無いのに、息が切れる。
遠沢が立ち上がった。目をきょろきょろさせ、汗だくになっている長岡に歩み寄る。
「余計に傷つけるような事はしたくなかったけど、すいません。目を覚ましてください。」
おもむろに、遠沢は長岡の首筋に手を伸ばす。そして、長岡自身は知覚できない「それ」を掴んで、力いっぱい引き抜いた。
「痛ぁぁああああ」
首筋を抑えて、長岡は痛みに叫ぶ。足から力が抜け、床に倒れ伏す。視界がぐにゃりと歪んで、長岡の世界の底が抜ける。目眩がする。脳髄が熱に沸騰したように思える。神経が悲鳴を上げている。
そして
自分の世界が戻ってきた。
遠沢の手には、長い待ち針のようなものが握られていた。
―――――――――――――――――――
民衆の波に翻弄される、近衛師団。
石を投げつけ、どこで手に入れたのか分からないような凶器を振り回し、押し寄せてくる人の群れ。しかもそれは、本来自分達が守るべきはずの日本国民である。敵ではない。しかし今現在においては、郊外に展開するゲリラ部隊よりも厄介だ。何より、その人の群れを焚き付け扇動し、武器を与えて、自らは人の群れに紛れて突然牙を剥いたりするような連中が居る。
飛虎隊である。陸軍の制服で騒ぎを起こした後は服を替え、民衆の大移動に紛れて今度は暴徒を焚き付け、暴徒を盾にして隙を突き、近衛師団に襲いかかる。陸軍の制服で近衛師団を惑わし、襲いかかって撹乱する者も居た。こういう原始的な手段も、この混乱の中では大いに有効であった。飛虎隊自身も、一騎当千の特殊部隊であるが、その単純な戦闘能力以上に戦略が厄介である。
駆逐されていく近衛師団。中央省庁と、帝国軍中央司令部がある霞が関、そして皇居のある千代田は厳重に守られていたが、その防衛線すらも徐々に破られつつあった。
「やあ、手こずってるようだねぇ、君達ィ」
その防衛線の最前線の陣地に、ふらっとやってきた者達が居た。耳が完全に隠れるほどの薄く染まった
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ