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真鉄のその艦、日の本に
第八話 人でなし
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かないわ。」


風呂元は、予想通りといった風情である。
にや、と口元を歪めている。


「退艦状況はどうなっとる?」
「ほぼ退艦は完了したよ。後は我々だけだな。」


本木の質問に辻掌帆長が答える。本木はふん、と鼻を鳴らし、そして操舵の佐竹に命じた。


「降下やめ。高度500に戻し、東に針路を変更」
「了解した。」


佐竹が、操縦桿を手前にグッと引く。手元の計器を操作すると、エンジンの息吹が戻る。力強く、艦体が持ち上げられていくのを感じる。


「目的地は、東京上空じゃ」


そう命じる本木に、何の迷いや躊躇も感じられない。ふと思い出したように、本木が辻に命じた。


「あぁ、そうじゃ。すまんが、辻、艦長にお休み頂いてくれ。」
「分かったよ。」


面倒臭そうに、辻が床に転がっていた物体を抱えて発令所を出て行く。
田中は既に、体の数箇所から血を流して冷たくなっていた。


――――――――――――――――




「津村中尉、しっかり」
「〜〜〜〜……」


脱出艇のプラットフォームの一つで、遠沢は救急セットの酸素マスクを津村にあてがいながら声をかける。津村は、時折うめき声を上げるだけで、体に力が戻らない。
長岡は、艦首が俯角から仰角に戻り、エンジンが息を吹き返していくのを感じ取っていた。意味が分からない。墜落するから総員退艦の令が出たのでは無いのか?しかし、墜落しないではないか。そもそも、総員退艦のはずなのに、この建御雷を誰が動かしているんだ?


「…神経性のガスを吸ってしまったようです。わずかな量だったので命に別状はありませんが、動けないですね…」
「ガスゥ!?何でそんなもん吸うんだ!?」


頓狂な声を上げた長岡に、遠沢は顔色一つ変えずに説明する。


「営倉から出て行く直前、換気扇から毒ガスを流されました。少し、脱出が遅かったみたいです」
「な………おい!毒ガスって何だ!?何でそげなもんが換気扇から流れてくんだ!?わけがわからん!」


長岡には状況がさっぱり掴めなかった。そして、何かを知っている風な遠沢に、苛立ちも募る。


「総員退艦じゃなかったんか!?何でこの建御雷はまた高度を上げとるんだ?俺にはさっぱり分からん!発令所に連絡を…」
「ダメです!」


近くにあった艦内回線電話を手にとろうとした長岡に遠沢は怒鳴った。冷たく尖った視線が、長岡を捉える。長岡は怯んだ。


「敵に居場所を教えるようなものです。艦内回線をかけたら」
「敵?敵がこの建御雷を占拠したんか、どこのどいつだそらぁ?」


遠沢は長岡の目を見て言った。


「幹部達です。この艦の幹部達は日本を裏切りました。恐らく、この艦
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