第八話 人でなし
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をする妊婦も、恐怖に声が出ず失禁している少年も関係ない。撃って撃って撃ちまくり、殺して殺して殺しまくった。
混乱が起きる。大混乱が。
逃げ惑う人の波が、スラム街から溢れていく。その混乱はどんどん波及し、普通階級の人々は「暴徒が来る」「陸軍が民間人を襲ってきた」との情報を基にまた移動、いや、逃避を始める。外出制限下の東京を、東京からの脱出を図る人々が駆け巡る。
それを収めようとする近衛師団には、民衆の憎悪のこもった視線と暴力が降り注ぐ。検問は内側から突破され、各地で暴徒と化した民衆と近衛師団の衝突が起きる。
近衛師団としては、守るべき国民に、唐突に牙を剥かれるのだ。強固に作った「防壁」の中での予想外の出来事に、そもそも実践経験の少ない近衛師団は対応できない。そしてその混乱に乗じて、飛虎隊は襲いかかる。
帝都が、死都へと姿を変える。日本一の街が血に汚れ、悲鳴と怒号が溢れ、憎悪と怒りに覆われる。不信と恐怖が、渦を巻く。
――――――――――――――
ガクッと、艦が傾いたのをまどろみの中で長岡は感じ、目を覚ました。心なしか、エンジンの音が力を失っているような気がする。
底が抜けるような感覚。高度を急に下げているらしい。
もう呉に着いたのか?
考えてみるが、そんな事はない。巡行速度と時間との計算が合わない。
どういうことだ、と思った時に、警報が鳴り出した。けたたましく、不快な音に、眠っていた遠沢と津村も目を覚ます。
<艦長より達する、現在、建御雷のエンジンに異常が発生した。15分後に墜落が予想される。総員退艦せよ。繰り返す、総員退艦せよ。>
長岡の顔から血の気が引いた。
津村は口をあんぐり開け、遠沢は険しい顔をつくる。
「なんてこった…!」
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突然の報せに、艦内は蜂の巣をつついた騒ぎになる。医務室から負傷者を優先的に運び出し、乗れる人間から次々に押し込まれるように乗り込んで脱出する。何せ15分しかない。退艦訓練は一度したが、その時のタイムでギリギリ間に合うかどうかの時間だった。
有田も、6分隊の面々と共に、脱出艇のプラットフォームまで来ていた。廊下を走りながら、人数を数えた。一人足りない。誰だ、と考えるまでもなかった。自分の相棒だ、最も信頼を寄せている部下だ。
「遠沢はまだ営倉か!」
走って来た道を引き返そうとするが、通路は、脱出を求める曹士でごった返し、逆走できそうにもない。一瞬怯んだ有田の首根っこを、ベテランの海曹が掴む。
「来てない者は置いといて、来た者だけで先に乗れ!」
そうして、脱出艇にぐいっと押し込まれ、外からハッチを閉められる。すぐに発進する脱出艇の中で、有田は、無駄だと知りながらハ
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