第七話 蜂起
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長岡を捉える。長岡の心臓がドキッと跳ねる。目を合わせたのは二回目だっただろうか。モノを見るような目で見られた。普段からこの女はそういう目でしか人を見ないのだろうが、しかし落ち着かない。
「発令所に篭っているのが仕事のあなたよりは、人を沢山殺してきましたし、戦闘を理解しているつもりではいます。」
長岡は、鉄格子の向こう側でちょこんと行儀良く正座しているこの小柄な女に、恐ろしさを感じている自分を自覚した。遠沢はこれまでの短い期間にも多大な戦果を挙げた。しかし、その戦果の中身は「敵の命」という事でもあり、それを遠沢自身の口から、より噛み砕いた表現で伝えられると、ゾッとする所がある。この涼しい顔で、この女は沢山の命を奪ってきているのだ。
不意に、本木が笑い声を上げた。
「遠沢に慰められたの、まー。お前より戦争を分かっとる遠沢が、人間らしさも大事っていうんじゃ。要するに、そんな卑屈になんなっちゅー事じゃ。そうじゃろ、遠沢?」
「……そうですね、そう言えば良かったのかもしれないです。申し訳ありません、偉そうな口をきいて」
軽い調子で発言をフォローする本木に、遠沢は少し俯いた。長岡は、本木のフォローを聞いて、また見方が変わったような気がした。まさかこの女、俺を気遣ったってのか?気遣ってこれかよ…俺を慰めるどころか、俺に説教かましてたぞ?なんだよそれは…どんだけ不器用なんだ…
ていうか、俺は、こんな年下の女に慰められてたのか?
その事を考えると、長岡はまた恥ずかしさを覚える。
「田中艦長も、けして命を冷徹に見られてる訳では無いんです。中共艦隊に撃ち返さない、それでいて被害を最小限にしようとするならば、私達機甲部隊を見捨て海域から撤退すれば良かったのですが、それをしませんでした。命を冷ややかに見ているようでいて、友軍を見捨てるような事をしようとはしませんでした。そのおかげで私達は無事なんです。艦の暴走が中共艦隊を全滅させたからこそ無事に済んだ所はありますし、今後より多くの人が死ぬ可能性もありますが。」
「でもまぁ、中共とものう、何も起こらん可能性もあるんじゃけ、現時点でよーさん人が生き残っとった方がめでたいじゃろ」
本木が、残りの水をぐっと飲み干して立ち上がる。場の全員の缶を回収して、自分の持ってきた袋に詰めた。
「多分、お前らみんな、中央には報告されんと思うけ、安心しんさい。一晩で出されると思うけ、それまで仲良く居れよ。じゃ、俺は部屋に戻るわ。俺も眠いからの。」
本木は営倉を出て行く。その後ろ姿を、遠沢と津村は牢の中から敬礼で見送った。長岡は何も言わずに寝転んだままだったが、やはり少し感謝していた。腹の中に抱えた鬱屈したものが、僅かではあるが晴れた気がした。
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