第四話 激突
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の何かではない。
全身から発される威圧感を感じて、印出の顔からニヤニヤが消えていく。
上戸は、ズボンのポケットから、一つの小瓶を取り出した。中には液体。毒々しい明るい桃色の液体が入っている。
「世の中には不思議なものがまだまだあってな、『幸せ草』…その中の、特定の成分……それを抽出した液体はHソイルと呼ばれるが……それを摂取すると、人の能力は飛躍的に向上し……場合によっては、人を超えた何かとなる」
上戸はその小瓶を天井の灯りにかざした。屈折した光が虹色に輝いて、なんとも美しく
そして不気味だ。
「画期的な発見だ。人をより高次の存在に進化させかねん、ある意味神の力を持った薬品といえる。」
「お前ら、薬物強化した歩兵を使ってやがったのか…」
印 出の顔が引きつっている。さすがの印出でも、戦う為だけに薬物を使って兵を強化するという発想には笑ってはいられないようだ。ステロイドなど、スポーツで 禁止されている身体強化のホルモン剤なども、戦争においてはルールが無いのだから、別に使ってもいい事になる。しかし、それをしている国は、印出には心当 たりがない。兵を薬漬けにして強化し戦わせる、その人道的問題はあえて言うまでもない。
そもそも、戦闘自体が非人道的行為ではあるのだが。
「しかし、こういったモノには大抵問題が付き物だ。人が変節する時、それは何かを失う時だ。抽出した原液のままのHソイルを射たれて生き残った者はこれまで僅か10人。被験者は数万人だがな。」
印出は息を呑む。数万人を、このエキスの実験の犠牲にした日本に。それを平気で語る目の前の女に。
「希釈に希釈を重ねて効き目を薄めた結果、ようやく人が死ななくなった。効果は身体能力の増強に留まってしまったが、仕方あるまい。それだけでも十分な成果 だ。しかし、今度は新たに依存性の問題が表出してきた。原液に適合した人間は成分を体内で再生産できるらしいが、希釈Hソイルによって増強された兵士は、摂取を止めて10日で、例外なく禁断症状を起こして死ぬ。」
ふと、上戸は印出に笑いかけた。ふふ、と鼻を鳴らす。
「貴様、元気そうだな、やたらと。何故だと思う?あんな地下牢に閉じ込められて、ロクな食事も与えられていないのに、どうして力が漲っているんだろうな?ククク」
「なっ、まさかっ…」
いつもは毅然としている上戸が、一気に、無邪気な、愉快そうな顔を見せた。
「一週間前から地下牢での貴様の食事には希釈Hソイルを混ぜていた。もう貴様は立派な中毒患者だ。貴様はもう我々の手の中でしか生きる事はできない!でないと一人で勝手に悶え死ぬ!」
「この野郎ぉ!」
印出は椅子から立ち上がり、テーブルを一気に乗り越え飛びかかった。その動きの軽さ、速さ、それは彼が捕まる
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