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真鉄のその艦、日の本に
第三話 進撃
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ような騒がしさがない。ずっとそうだった。与勝基地を出航した時から。建御雷の幹部は選ばれて、一年の間専用の研修を積んできた仲間 である。それは曹士に至るまでもがそうである。あの与勝基地での件以来、研修中のように馬鹿話もできるような雰囲気ではなくなってしまった。周りが変わっ た。環境が変わってしまった。明日、建御雷は作戦行動に移る。基本、若手の幹部達には、実戦の経験はない。艦長の田中に、15年前の日本海尖閣諸島沖海戦 の経験があるくらいだ。幹部達はその田中も含め、食事中も顔が強張っている。人と命のやり取りをするのが、恐ろしくないはずがない、普通は。海軍軍人達 は、普通の人間だ。艦を動かす事を仕事にした、普通の人間だ。

「……………」

しかし、有田は泰然自若とした雰囲気を崩さない。話そうともしないが、余裕のある顔をしている。あの与勝基地での戦いも経験しているからなのか、落ち着いている。

「……………」

航空隊隊長の森も、緊張した様子はない。元々空軍は中共国境線や、米太平洋艦隊の領空侵犯その他諸々に対してしょっちゅうスクランブル発進を繰り返してお り、一触即発の修羅場には慣れているのだろうか。一瞬の不注意が命取りになる緊張のもと、日々空を駆ける男達の頼もしさだろうか。それを考えてみると、普段の海軍は随分とのんびりとしたものなのかもしれない。

「…………フッ」

戦闘への恐れが全く垣間見られない男は場にもう一人居た。クシャクシャな髪の毛をした、面皰が少し目立つ面長の顔、少し小柄だが、どこかバカにしたような笑みを大抵の時間顔に張り付かせている。印出中尉。福岡駐屯地で増員として加わった、諜報機関の東機関直属の要撃部隊「山犬」70人の隊長である。今回 の任務では、最も危険な敵地への上陸を試みる。その癖、誰よりも顔に緊張感がない。

「相手方の戦力は、どんなもんなんでしょうね…」

重い雰囲気の中で口を開いたのは脇本航海長だ。まだ若く、29である。太い鷲鼻と太い眉、大きな目をしている、幼い顔の男だ。面々の中で一番不安気な顔だ。実際怖いのだろう。

「東機関からの情報によれば、機動甲冑が15機、基地内の構成員が1500人弱、結構な要塞だ。岩盤に守られているから、噴進弾による爆撃では潰せん。だから機動甲冑を揚陸して…」

作戦会議で決まった作戦の内容をもう一度なぞるような事を言い始める、小太りの辻掌帆長を、長岡は冷ややかな目で見ていた。この若い航海長が聞きたいのはそんなデータでの話ではなく、大丈夫だ、その一言だ。ビビってるが故に、安心したいのだ。理屈で考えて云々の話ではない。

しかし、実際、敵の二神島要塞は、思った以上に堅牢に、よく作られている。機動甲冑の数は敵が倍以上。歩兵の戦力で言うと、相手は1500人弱、全員が歩兵 で
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